MIT教授がデザインした「未来のスーパーマーケット」に潜入-人間らしさを重視したアイデアに溢れた空間

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2017/04/05

(Photo by Michele Versaci/Carlo Ratti Associati提供)


2015年にミラノで万博が開催されたのはまだ記憶に新しいところ。世界中からの参加国(団体)がまるで遊園地のアトラクションのように楽しい展示ブースを設け、テーマである“食と環境”の未来を提案し、来場客を魅了していた。会場は解体されてしまったが、そんな夢の展示が実現化されたものもある。それが、「Supermercato del Futuro(未来のスーパーマーケット)」だ。

昨年12月にミラノ・ビコッカ地区にオープンした「Supermercato del Futuro」

昨年12月にコープ(生活共同組合)がミラノにオープンしたこのスーパーマーケットでは、センサーとタッチパネルによって、手に取った食品の原産地、売り場に来るまでの過程、栄養成分やアレルゲン、使われた保存料や科学成分、賞味期限などのあらゆる情報がスクリーン上に表示されるという、まるでSF映画のような世界が繰り広げられている。

陳列棚の上には商品の情報を表示するタッチパネルが設置(Photo by Michele Versaci/Carlo Ratti Associati提供)

このプロジェクトを指揮したのが、MITセンサブル・シティラボ ディレクターのカルロ・ラッティ氏。万博のために開発した企画が、今回実物のスーパーマーケットとしてオープンした。

このプロジェクトを指揮したカルロ・ラッティ氏(Photo by Lars Kruger)

「このアイデアはイタロ・カルビーノの小説『パロマー』に着想を得たもの。変わり者の主人公があるチーズ屋で “ここにあるチーズ一つひとつは、さまざまな空の下で、違った草を食べた、それぞれ違った牛の乳からできている” と言って、チーズ屋を博物館に例えるシーンがあり、そこから生まれたんです。これは小説の中の話ですが、実際の調査でも消費者たちが今望んでいるのは、自分たちが買うものについての明瞭で詳しい情報だということが分わかっています。消費者はもっと食品を理解し、納得した上で購入したいと思っているようなのです」 

センサーとタッチパネルで食品の様々な情報がスクリーン上に表示される

オープンからまだ数カ月にして、このスーパーマーケットに対する評価はかなりポジティブで、当初の売上額の見積もりを順調にクリアしているという。Eコマースや配達サービスが向上する現代において、わざわざスーパーマーケットに出向くのは時代から後退する作業のようでもあり、またこのスピード社会において買い物時間はひたすら短くしたいという消費者のほうが多いのではないか、というちょっと意地悪な質問にも、ラッティ氏はこんなふうに答える。

「実は、“基本的には買い物嫌いで、できればスーパーには来たくないし、さっさと買い物は済ませたかったが、こんな店なら長居したいし、もっと買い物がしたくなった” という消費者からの声は多かったんですよ。私自身は将来的には買い物のやり方は二極に分かれると考えています。オンラインで日常的に必要なものをすぐに家に届けてもらいつつ、もう一方で新しいものや特別なものはあえてスーパーに行ってじっくり研究し楽しみながら選ぶ、という形に…」。Supermercato del Futuroは、こんな店なら行ってみたいという “スーパーへの興味” と、見て理解してから買いたいという “スーパーに行く意味” を消費者に与えるのだ。

買い物嫌いな消費者もスーパーマーケットで買い物がしたくなる店

 このプロジェクトに関わったコープ・ロンバルディアのコミュニケーション責任者アンドレア・ペルテガート氏は言う。

 「もちろんこの地域の一般消費者たちが毎回モニターを見ながらスーパーに長居するわけではありません。でもたとえ見なくても、われわれが包み隠すことのない情報を与えているという事実は消費者の信頼につながります。またこの地域は大学や企業があり、知識層や若い世代など食文化や環境問題に関心が高い人が多く、元々そういう特別なターゲットを念頭に置いてこの場所にオープンしたということも成功の秘訣だったと思います」

この店は特殊なケースだが、例えば老人の多いゾーンには小さめの店舗を作るなど、他の店に関してもコープは客層を念頭に置いて店づくりやサービスを行っているという。

コープ・ロンバルディア・コミュニケーション担当 アンドレア・ペルテガート氏

 さらに、この店の特徴は商品情報のモニターだけではない。イタリアの大半のスーパーがそうであるような天井に届くほどの高い棚はなく、低くて隣の陳列レーンも見えるくらいになっていて、また売り場間の行き来も自由にできるようになっている。

 「これによって物がよく見えて買い物がしやすくなりますし、棚の上から向こうの人が見えることで、買い物客同士の人間的な係わりが生まれるのではないかと考えています。展示商品数は30%減になりますが、その分だけ商品をよりセレクトして配置しています」とペルテガート氏。

また、冷蔵保存が必要な食品に関してはガラスのドアのついた冷蔵庫に入れることで、エネルギーの節約や食品保存温度を安定させたり、車いすの人も手が届く高さに前出のモニターのセンサー部分を配置するなどのケアがなされている。

ちなみにこれはコープ全店に関することだが、運送エネルギーの節約のため商品はなるべくゼロマイル(近隣)商品をセレクトしたり、アンチマフィア運動のオリジナルブランドに力を注ぐなど、テクノロジーの部分だけではない環境的、社会的問題への取り組みもなされている。

環境的、社会的問題に対しても敏感なコープ

薄利多売のスーパーマーケット業界だが、綿密なマーケット戦略と、消費者に与える安心感が小さな売り上げの積み重ねになり、また商品の説明がきちんとなされているから有機食品などの価格が高めのものも売れるとペルテガート氏は続ける。

「もちろん時代を意識したサービスにも力を入れていますよ。例えば通常のEコマース宅配サービスだけでなく、オンラインでオーダーして駐車場で商品を受け取るドライブスルー販売“COOP DRIVE”や、セルペルテガートを使ってのレジ支払いなどの決済面での簡略化や、コープ会員が使用できる長期型シェアリングカー “DRIVE DIFFERENT”など、他のスーパーに先駆けたサービスも多いのです」

“未来のスーパーマーケット” はひたすら先鋭テクノロジーを揃えたものではない。そこにはより人間らしく生きるためのアップデートとアイデアが溢れている。

人に寄り添う形でテクノロジーやサービスを考える

写真で見る「Supermercato del Futuro」


取材・執筆:田中美貴
撮影:Stefano Triulzi
編集:岡徳之(Livit

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