日本が世界のイノベーションをリードできない『深い』ワケ

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2016/09/29

(写真=PIXTA)

「日本はイノベーションが生まれにくい」「日本発のイノベーションは少ない」--。反論はあろうが、これが多くの日本人が抱いている印象だろう。その原因として挙げられるのは、わが国独自の社会制度、学校教育、企業文化・組織などだが、なかでも興味深いのは日本人の遺伝学的要因に拠るものだ。

日本人はイノベーションを起こしにくい!?

「日本人の多くはイノベーションを起こしにくい遺伝子を持っている」と指摘するのは、脳科学者で医学博士の中野信子氏。人間の行動や考え方、健康を左右するのは後天的要因が大きいが、遺伝的要素がより強く作用するものもあるようだ。人間のDNA(ヒトゲノム)は2003年に全て解明され、国際参照配列として公表されたが、その後の解析技術の飛躍的進歩により、どの遺伝子がどの疾患に強く関与しているかがかなり分かってきた。

例えば、癌や脳卒中、認知症、花粉症などは、他の疾患に比べ遺伝的要素が強いことが明らかにされている。代表的な生活習慣病とされる高血圧や糖尿病なども実は癌よりも遺伝的要素が強いそうだ。俳優のアンジェリーナ・ジョリー氏が、当時は発病していなかったのにもかかわらず乳房を切除して話題を呼んだが、これは遺伝子検査で乳癌を発症するリスクが87%との診断を受けたためだという。

イノベーションを起こす遺伝子などというものは存在しないが、中野氏が指摘するのは、「セロトニン」という、ドーパミンなどと並んで体内で特に重要な役割を果たす神経伝達物質の存在だ。多く分泌されると気持ちがホッとしたり、満ち足りた気分になったりすることから「幸せホルモン」とも呼ばれる。記憶力や学習効果にも影響を及ぼすという。

特定の遺伝子は個人の行動により強く作用する

話は少しややこしくなるが、神経細胞にはこのセロトニンを使い回すセロトニン・トランスポーターというたんぱく質があり、その量は遺伝的に決まるらしい。その生成をつかさどる遺伝子がL型であればトランスポーターの量が多く、S型だと少ないそうだ。

中野氏によると、このS型遺伝子を持つ割合が日本人は81%と調査29ヵ国のなかで最も多く、例えば米国の43%の2倍近くに当たるという。人は「幸せホルモン」が多いと楽観的で大胆に、少ないと悲観的で慎重になる傾向があるため、この遺伝子が日本人のイノベーション能力を抑えている可能性があるというのが同博士の考えだ。日本人のS型遺伝子の特異的な高さは、この島国の300年の長きに及ぶ鎖国が深く関わっているかもしれないとする仮説は興味深い。

悲観的で慎重な見方をする人は、従来のやり方や考えを大きく変えたり、まったく異なる方向に進んだりするのを躊躇しがちで、仲間と違うことをしたり変化を好む「異分子」を排除する傾向が強い。ある集団の8割がそのような人間であれば「出る杭」は打たれ、「異分子」がトップに上り詰めることもなく、その集団は全体としてイノベーションの起こりにくい保守的な体質になるのかもしれない。

日本のイノベーションのブレーキは「S型遺伝子」

DNA解析の話に戻ると、その後「日本人基準ゲノム」の最初のバージョンが解明されている。これは国際参照配列の30億個に含まれない塩基数200万以上の日本人固有の配列を同参照配列の該当部分3,000ヵ所以上に挿入したものだ。このなかにはイノベーションに関わる上述S型以外の遺伝子もあるのかもしれない。

他方、米ゼネラル・エレクトリック社が2016年1月に公表した「2016 GEグローバル・イノベーション・バロメーター」では意外な結果が出た。5回目となる世界23ヵ国の企業幹部などを対象とするこの2015年調査レポートで、日本はイノベーション・チャンピオンであるとの回答が17%を占め、ドイツを抜いて前年の3位から2位に返り咲いたのだ。1位はもちろん米国である。

ただ日本の不安材料も指摘している。「画期的・破壊的なアイデアを着想する難しさ」が重要課題の一つと考える日本企業が過去最多(72%)となり、 前年(55%)と世界平均(60%)を大きく上回った。成功したイノベーションを、より広い市場や国際市場に展開できないと考える割合も前年の50%から67%に増え、協業によるイノベーション活動も苦手だ、という。

イノベーションは「技術革新」ではない

イノベーションは「技術革新」と訳されることが多いが、ブレークスルー、つまり「これまでの延長線上とは違う何かを生み出すこと」というほうがしっくりくる。ソニーの「ウォークマン」はイノベーションだったことに異論はなかろうが、それは「音楽を手軽に持ち運ぶ」という発想のイノベーションであって、手のひらサイズにした小型化は従来の技術進歩の延長線上に過ぎない。

前述のL型遺伝子を持つ人間が潜在的イノベーターであるとすると、日本は人口の約2割の2,500万人、これに対し米国は人口とL型比率が日本のざっと2倍と3倍だから6倍の1.5億人。遺伝的観点で見ればイノベーションにおける日本の劣勢は明らかだ。

だが「遺伝子で決まるなら仕方ない」と諦めるのはまだ早い。日本にはそれなりのやり方があるはずだ。例えば、組織の最優先課題にイノベーションを掲げたらどうだろう。幹部が意識を変えれば部下の8割のS型人間も安心してついて行ける。これまで冷や飯を食わされていたかもしれない2割のL型人間も加わり、組織の力は10割になる。

かつて世界的優位にあった日本のハイテク事業の多くは、海外勢に追い上げられ、過剰機能・高コストの「ハイエンド」市場に逃げ込み、結局は撤退を余儀なくされる「自滅の道」を歩んできた。そこそこの機能、手ごろな価格の製品・サービスの開発に経営資源を集中させるだけでも日本企業にとってはイノベーションと呼べるかもしれない。

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