ひとりの社員のアイデアが外販にまで発展した「AISeed」に見る、三菱UFJ信託銀行のイノベーションとは?

ひとりの社員のアイデアが外販にまで発展した「AISeed」に見る、三菱UFJ信託銀行のイノベーションとは?

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2021/06/16

三菱UFJ信託銀行は2021年3月、三菱UFJトラストシステム(以下、MUSK)および株式会社AVILEN(以下、AVILEN社)との協業によって開発した、専門知識がなくてもExcelでAI開発が可能なシステム「AISeed」の外販化を決定した。簡単な操作で用途に応じた機械学習モデルを作成できる同ツールは、社員のアイデアから生まれ、その後の社内展開で様々な用途における成果が確認できたことから、同社では初の試みとしてシステムの外販化を決断した。今回はAISeedが誕生した背景や全社展開の経緯、またその過程での組織変革などについて、プロジェクトに参加したメンバーに話を伺った。

(写真左から)
三菱UFJ信託銀行 経営企画部 デジタル企画室 上級調査役 岡田拓郎氏
三菱UFJ信託銀行 資産運用部 外国債券運用グループ チーフファンドマネージャー 樋口裕之氏
三菱UFJトラストシステム ITイノベーション推進部 グループマネージャ 伊豆峻昭氏

現場社員から新たなアイデアを生み出すためのAI活用

—まず、「AISeed」がどのようなものなのか教えてください。

 

伊豆氏:AISeedは、ユーザーがExcelにデータを入力してボタンを押すだけで、簡単に機械学習モデルを作成できるツールで、「AutoML(Automated Machine Learning)」と呼ばれる手法をベースに開発されています。AutoMLは簡単に言えば、機械学習の専門知識がない人でも、自動化されたプロセスの中で機械学習モデルを作ることができる手法のことです。すでに世の中には多くのAutoMLツールが存在していますが、操作画面にExcelを使ったツールは希少であり、画期的なことだと思います。

樋口氏:銀行の業務においては、常に数字やデータが欠かせません。様々な場面でこれらを扱う上で、利用頻度が高く、現場に受け入れられやすいExcelを操作画面とすることは、私たちにとっていわば必然的な選択でした。この方法ではAIの精度を高める上での限界はありますが、データで何ができるかを現場の社員の方々に実感してもらうことができます。そうなることでAIを活用した新たなアイデアが生まれ、多くの課題を解決できるようになるはずです。AIを身近に感じることができない方も多い中で、こうした環境づくりは非常に重要だと思っています。


(三菱UFJ信託銀行 資産運用部 チーフファンドマネージャーの樋口裕之氏)

—具体的な用途としては、どのようなことが考えられますか。

 

樋口氏:一般的にAIと親和性の高い用途として挙げられるのは、信用スコアリングの精度向上やマーケティングなどです。ここは私の専門外ではありますが、クレジットカード、貸出などの信用力調査の精度向上に加えて、データに基づいてお客様の考え方やライフスタイルをより深く把握することで、ユーザーのアイデア次第でこれまで以上に最適なソリューションのご提案も可能になるかもしれません。また、私の専門分野では運用対象アセット、経済指標などの将来予測や相場の局面判断など、ファンドマネージャーの意思決定を支援してくれる情報を得ることができます。

岡田氏:長いキャリアを積んできたベテラン社員のノウハウには計り知れないものがあります。ただ、ナレッジを共有するという考え方がなかった時代においては、そのほとんどが個人知、暗黙知でした。今後はこうしたノウハウをAIに学習させることで、次世代に継承していくことも可能になるのではないかと考えています。

お客様をよく知る現場社員のアイデアを引き出し、課題解決につなげる

—AISeedの社内展開においては、どのような活動からスタートしましたか?

 

樋口氏:まず、AISeedで実際に何ができるかを知ってもらうための社内勉強会を開催しました。ここには部課長クラスの方々を中心に120名ほどが参加し、多くの理解や知見を共有することができました。私自身はシステム部門の人間ではなく、資産運用が本来の業務なのですが、こうした勉強会の開催も上司の理解があってはじめて実現したものです。

岡田氏:樋口さんがAISeedを発案したのが2018年8月、全社展開のためのシステム化が始まったのが2019年9月です。私も勉強会に参加したことがきっかけで、将来性のある取り組みが始まっていることを直感したことから、樋口さんに全社でのシステム化を提案し、MUSKの伊豆さん、外部パートナーであるAVILEN社の代表取締役の高橋さんにも声をかけました。

これまでの社内の仕事は、ミスがないことを最優先に考える「守り」が中心で、上司の指示に従って堅実に業務を進めていくのが基本でした。ところが、今回のプロジェクトは樋口さん自身の発案によって立ち上がったものです。さらに社内展開の中で、具体的な業務における成果が確認できたことは大きなポイントでした。デジタル化に対する共通の課題認識はありましたが、こうした社員一人ひとりの自発的な働きかけで小さな成功体験を積み上げていくことが、大きな推進力となっていくのだと思います。

その後、2020年の秋から外販化の検討が始まりました。ここでは、当面の間は社内での利用にとどめるのか、オープンイノベーションの推進に向けて外販化に踏み切るのかについての議論がありました。その結果、幅広いユーザーのニーズに対応することによるツールの高度化や、他ベンダーとの提携の可能性などを踏まえ、後者のメリットが大きいと判断し、外販化が決まりました。この考えを役員や部長が後押ししてくれたことも、外販化を実現できた大きな要因です。


(三菱UFJ信託銀行 経営企画部 上級調査役の岡田拓郎氏)

新たなチャレンジから生まれるイノベーションの文化

—外販化に至るまでには、ハードルもありましたか?

 

岡田氏:銀行法の規制もあり、銀行がシステムを外販するには様々なハードルがあります。特に銀行にとって信用は最大の財産ですから、法務や税務の担当部門からは厳しいリスクチェックが入ります。ましてや、こうしたツールの外販は前例がなかっただけに、ありとあらゆる指摘が入り、これはやはり無理なのかと思いかけたこともありました。

しかし、厳しい指摘の一方で様々なアイデアや協力も得ることができました。経営企画部主計チームからは、信託銀行で培った税務・会計の専門的な知見を最大限活かし、積極的にアドバイスを頂きました。また、法務部からは法律面での解釈はもちろん、スキームの見直し案など、全面的にサポートしていただきました。これら守りの部署が、新しい取り組みに対して大きな力を貸してくださったことが、最後までやり切るエネルギーにつながったと確信しています。

また、収益のスキームも過去に経験したことがないものでしたので、考えるべき観点を様々な角度から上司がアドバイスしてくれました。こうしたやりとりの中で、新しいことにチャレンジしなければならないという危機感、イノベーションに対する想いは全社共通だと実感しました。

伊豆氏:2017年にMUSK のITイノベーション推進部が発足して以来、当部ではイノベーションの推進に向けた研究開発、PoC及び開発案件を通して、AIやクラウドなどの技術や知見を蓄積してきました。MUSKとしても初の取り組みであるAISeedの外販化は、これまでの地道な活動が実を結んだ結果だと思っています。

また、外部へのソフトウェア販売は、MUSKとして定められている業務の範囲を超えた新たな取り組みであり、過去に例のない対応が必要でしたが、企画室や管理本部総務部をはじめとした全社の協力のおかげで実現できたと感じています。


(MUSK ITイノベーション推進部 グループマネージャの伊豆峻昭氏)

岡田氏:こうした当社およびMUSKの全社的な協力のおかげで、2021年4月にAVILEN社を含む3社による業務提携契約を締結し、プレスリリースで発表することができました。システムの外販化は以前もアイデアはあったのですが、高いハードルによって実現には至りませんでした。しかし、今回のプロジェクトによって前例ができたことで、これまでにないイノベーションの文化が醸成されつつあるのではないかと感じています。今後も続々と新たなアイデアが生まれてくることを期待しています。

AISeedがもたらす価値を広く社会に提供する

—AISeedは今後、社会でどのように活用されるとお考えでしょうか?

 

岡田氏:信託銀行は高齢者のお客様が多く、投資商品・年金等をお預かりして運用することで、お客様の老後のお金の不安を解消することを1つの使命としています。従来の人によるサービス提供では、お客様がどのように老後の資金を使いたいのかをお伺いして最適なご提案をするため、全てのお客様にオーダーメイドの金融サービスを提供していくには限界がありました。今後は信託銀行のノウハウをAIが学習することで、お客様毎にセミオーダーなご提案をしていくことができると考えています。

また、いくつかのご提案の中からどれを選択するかの判断も、お客様にとっては難しいことでした。それもAIによるレコメンドで、スマートフォンでいくつかの項目を入力するだけで最適な選択ができるようになります。スマートフォンの操作にある程度慣れていれば、自宅でご家族と相談しながら検討することもできます。自分の両親が利用する姿なども想像しながら、お金に関するお客様の様々な悩みを解消していきたいと考えています。

—AIがより身近な存在になっていくということですね。

 

岡田氏:今後、AIはExcelのように銀行の業務における必須のツールになると思っています。昔はExcelを使える人が限られていましたが、今は誰もが当たり前のように使いこなしています。AIも同じで、技術の進歩がパラダイムシフトを起こすと思っています。

AISeedの販売先としては、特に金融機関は私たちが社内で培ってきたノウハウを適用しやすく、多くの価値を感じていただけるのではないでしょうか。また、信託銀行の営業エリアは首都圏が中心ですが、地方銀行は全国にあります。そのため、地方銀行に導入いただければ、より多くの方にAISeedの価値を届けることができます。こうした最新のテクノロジーを活用した取り組みを継続していくことで、お客様の豊かな生活の実現に間接的に貢献できるだけでなく、金融ビジネスのイノベーションをさらに前に進めることができると考えています。

AISeedお問い合わせフォーム:https://service.avilen.co.jp/l/843143/2020-02-10/mdt1fb

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