リモートワーク時代のHR~リモートで従業員の採用と定着をサポートする注目のHRtech企業~

リモートワーク時代のHR~リモートで従業員の採用と定着をサポートする注目のHRtech企業~

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2020/08/28

人事(Human Resources)の技術(Technology)は「HRtech」と呼ばれる。ICT(情報通信技術)を活用した人事管理はここ20年余りの間に普及してきた。めざましい技術の発達を背景に、近年特にチームや個人の柔軟な働き方を支援するための技術が進化し、HRtechという言葉が登場した。

特に、新型コロナウイルスの拡大により、日本においてもリモートワークを導入する企業が相次いだ。東京都が2020年5月に行ったテレワーク導入率緊急調査結果によると、都内の従業員30名以上の企業について、「テレワークを導入している」と答えた割合は2020年3月の24.0%から62.7%へと2カ月のうちに大幅な伸びを示している。

そのような中、リモートでの採用活動や、リモートで働く従業員が成果を上げるための環境整備および従業員満足度の向上は、今や企業の重要課題となっている。

そこで本稿では、国内外の事例を通して、リモートワーク時代のHRtechを「採用」と「従業員管理」の2つの側面から見ていく。

欧米では一般的になっているリモート採用

2020年4月、米国のリクルーティング企業Jobviteが200人の採用担当者を対象に実施した調査によれば、回答者が所属する人事部門の84%はリモート採用に取り組んでおり、書類選考や面接などの採用プロセスがリモートに移行する傾向にあると報告されている。


(画像出典:LinkedInウェブサイト

欧米では以前からオンライン上で採用が行われている。

応募の段階では、LinkedInのようなビジネス特化型SNSに自分の職務経歴を掲載し、それを閲覧した企業からスカウトされる、あるいは自社の従業員の紹介で採用される「リファラル採用」などが行われている。

そして「スクリーニング」と呼ばれる段階での面接はほとんどを電話またはビデオ通話で行い、最終面接になって初めて候補者と直接会うというプロセスを経る企業がほとんどだった。

しかし前述のJobviteの調査によると、2020年4月では最終面接においても80%の企業がビデオ通話を活用している。新型コロナウイルスの影響を受けリモートワークが常態化するにつれて、リモートでの採用の必要性が高まり、オンライン上でより正確に人材を評価する技術が重要となる。その流れはもちろん日本でも同様だろう。

ここではまず、オンライン上で、正確に素早く人材を評価するテクノロジーを紹介する。

採用・海外事例(1)AIで効率的かつ公正な採用を支えるHiredScore


(画像出典:HiredScoreウェブサイト

企業に多数送られてくる履歴書の中から、AIを利用して最適な候補者を選ぶ取り組みが広まっている。その中でも米国ニューヨークで2012年に設立されたHiredScoreのAIテクノロジーは、フォーチュン500に選ばれているような有名企業を含め、広く採用されている。

同社は、求人応募者の履歴書の中から最適な候補者をリアルタイムで採点する「Spotlight」や、過去の求人応募者などのデータの中から求める人材の条件にマッチする候補者を特定する「Fetch」などを提供している。これらの製品は、採用活動における選考のプロセスを自動化してくれる。

同社は従業員が70名と小規模ながら、売上高は1,000万ドル(約10億7340万円)を超え、人事に関する情報を集めたメディア「HRExaminer」が選ぶ2020年のウォッチリスト(注目すべき企業)にも選ばれている。

採用・海外事例(2)リファラル採用を高度化するIntrro


(画像出典:Intrroウェブサイト

前述の通り、在籍している従業員の紹介を通じたリファラル採用を行う企業が増えている。企業のカルチャーを良く知る従業員が紹介することで、その企業にマッチした人材に巡り会える可能性が高いからだ。また企業としても、リファラル採用を活性化するためには、従業員が「紹介したい」と思えるようなカルチャーを醸成しなければならないので、企業文化の向上にも役立つ。なお、昔の「縁故採用」と違うのは、必ずしも地縁や血縁を必要としないことだ。

英国ロンドンに本社を置き、開発拠点をジョージアのトビリシに置いているIntrro社は、「リファラル採用」の効率化に注力している。機械学習を活用して、従業員の友人、知り合いから自社の従業員になってくれそうな意欲や能力のある候補者を社内の求人要件にマッチングさせることで、企業と相性の良い人材を採用することができる。

また従業員のSNSにも連携することができる。ただし、その候補者の名前、民族、年齢、性別などの個人データは匿名化し、偏見につながりうる項目による判断をしないよう十分配慮されている。

同社は、2020年3月にはシリコンバレーのベンチャーキャピタルが主導する資金調達で50万ドル(約5,367万円)を調達しており、今後のビジネス拡大が期待されている。

採用:国内事例(1)採用の競争力を上げるシングラーの「HRアナリスト」


(画像出典:HRアナリストウェブサイト

リモート採用時代の新たな採用手法を提案するのはシングラー株式会社の「HRアナリスト」だ。

HRアナリストは、選考過程での辞退数を減らし次の選考段階へ誘導するために、面接満足度を向上させるサービスだ。候補者にオンライン上でアンケートを実施し、候補者の意思決定のプロセスや志向性を分析する。それに基づき、候補者ごとにパーソナライズドされた採用手法(面談方針や相性のよい面接官の選出など)を提案する。

同社は、2019年1月から転職サービス「doda(デューダ)」と連携して、企業に合わせた採用手法の提案を強化している。

採用:国内事例(2)リファラル採用をテックで伴走するRefcome


(画像出典:リフカムウェブサイト

リファラル採用の鍵となるのは、会社への愛着や満足度である。自分が「友達にも働いてほしい」と思わない限り紹介には至らない。株式会社リフカムが提供しているサービス「Refcome」では、従業員の会社へのエンゲージメントを把握し、各社に応じたリファラル採用のプログラムを設計・提供する。また従業員が知り合いに対してスムーズに自社を紹介し、応募できるプログラムやシステムを構築している。

ちなみにこのシステムは、チェーン展開をする飲食店などでアルバイトスタッフを多数雇用するケースでも実績を上げている。

リモートワーク時代だからこそ重要になるテクノロジーを使った従業員管理

リモートワーク環境の浸透に伴い、心理的な面を含めた従業員の健康管理や、会社に対するロイヤリティの維持が企業にとって重要な課題となっている。一橋大学経済学研究科の原泰史特任講師ら「組織学会」の経営・経済学者とHR総研が共同で実施した調査「新型コロナウイルス感染症への組織対応に関する緊急調査 : 第一報 」によると、6割の企業が「ストレスを抱える従業員が増えた」と回答している。リモートワーク環境が原因のストレスに対しても、オンラインで対処していく必要がある。

従業員管理:海外事例(1)福利厚生の向上で従業員のロイヤリティを上げるLimeade


(画像出典:Limeadeウェブサイト

米国ワシントン州に本拠地を持つLimeadeは、アンケート結果やウェルビーイング(心理的健康状態)などの個人データから従業員の身体的、精神的な健康や、経済的な満足度を上げるための会社の施策を提案することで、従業員のエンゲージメントを向上させるサービスを提供している。

例えば、ミネソタ州に多数の病院やクリニックを展開する団体Allina Healthでは、2014年頃、一生懸命に仕事をしていた人が急に熱意や意欲を失ってしまう「燃え尽き症候群」に従業員の多くが悩まされていた。看護師も管理職員も、トップが自分たちの健康に気を使ってくれないと感じていたのだ。

しかし、Limeadeを使用して燃え尽き症候群のリスクを示すグループやその特徴を特定することで、ストレスを軽減し、回復力を高め、モチベーションを上げるための活動に繋げた。その結果、離職率が低下しただけではなく、生き生きと働く従業員にケアされる入院患者の満足度をも高めることになった。

従業員管理:海外事例(2)従業員のパフォーマンスとモチベーションを上げるAppraisd


(画像出典:Appraisdウェブサイト

英国ロンドンで2012年に設立されたAppraisdでは、オンラインの従業員パフォーマンス管理システムを提供している。日本での導入実績はないが、これまでに約300社、60,000人の従業員に対するサービスを行っている。

多くの会社では1人のマネージャーが多人数の部下を持つことが多いが、1人1人がどのような仕事をしていて今現在どのような状態にあるかを把握し、どのようなサポートを必要としているかを判別することは実際のところなかなか難しい。それを一目でわかるようにしているのが同社のシステムだ。

プラットフォーム上で従業員1人1人の目標とその進捗状況を確認でき、それに対するフィードバック機能によってマネージャーと部下の会話の機会を促進したり、トレーニング計画の提案を行ったりする。

ちなみに同社自身のリモートワークにおいては、在宅勤務用のマネージャーと部下との会話ツールを使って、メンタルヘルスに関する不安やチームメンバーが抱えている心配事を共有しながら、いつでも相談できる環境を整備している。

従業員管理:国内事例(1)従業員体験の向上を実現するEmployeeTech


(画像出典:Emotion Techウェブサイト

株式会社エモーションテックは、もともと顧客体験の向上のためのシステムに取り組んできた。そのノウハウを使って開発、提供しているのが「Employee Tech」による従業員体験の向上だ。

離職率の改善やチームの生産性向上のためのアンケートを設計し、従業員の感情をリアルタイムに解析することでモチベーションダウンをアラートし、改善を示唆してくれるものだ。

このシステムはクラウドソーシング大手のランサーズにも採用されており、会社に対する従業員のエンゲージメント変動の要因を可視化し、課題を把握することにも役立っている。

同社はその実績が認められ、2018年には経済産業省後援の「HRテクノロジー大賞」や、120,000人の人事キーパーソンが選ぶ「HRアワード2018」のプロフェッショナル組織変革・開発部門にて最優秀賞を受賞した。

従業員管理:国内事例(2)リモートワークでも悩みを抱え込まないマネジメントツールを提供するHiManager


(画像出典:HiManagerウェブサイト

ハイマネージャー株式会社は2018に設立された企業だ。生産性が高いチームはチームメンバーが職務を遂行する上で恐怖や不安を感じることなく、安心して発言や行動がきるという「心理的安全性」が高いチームであるというGoogleの研究から、心理的安全性が高いチームを作るためのマネジメントツール「HiManager」を開発している。

同社のサービスは、目標達成における会社やチームのコミュニケーションサポートなど、リモートワークのマネジメントに必要な機能が詰まったオールインワンプラットフォームだ。

リモートワークにおける「目標設定」や、部下の活動をシステム上で確認しながら面談ができる「1on1(部下が求めていることや普段話せないことなど思考や感情を上司と共有する時間のこと)」、あるいは会社の従業員に対する「評価」や従業員同士が日頃どのようなことで感謝されているかがわかる「称賛」、従業員が会社に対してどの程度愛着を感じているかがわかる「エンゲージメント」などの機能によって、チームメンバーの働き、評価、満足感などを記録・蓄積し可視化することで、コミュニケーションの活性化をはかる仕組みを提供し、併せてマネージャー自身の成長もサポートする。

まとめ

企業の競争力強化と成長には、優秀な人材を着実に採用し育成することが必要不可欠であり、その取組に資するテクノロジーの導入・活用はより浸透していくであろう。リモートワークによって、対面から非対面への変化が促され、その中で円滑なコミュニケーションや従業員のモチベーション維持、チームワークの発揮にどう対応していくかという課題がある。

そうした時代の変化に機敏に対応し、人材の採用と育成をサポートするHRtechをいかにうまく使いこなせるかが、企業の人事戦略の重要なポイントの一つとなる可能性がある。そうしたニーズに応える、リモートワークでの人事戦略を進化させる技術は今後も数多く現れるだろう。多様な進化を見せる一方、競争も激化するであろうHRtechには今後も注目しておきたい。

(※米ドル/円レート:2020年6月12日現在 107.34円/ドル)

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