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大企業とスタートアップ、それぞれの強みを活かす業務提携の形とは

大企業とスタートアップ、それぞれの強みを活かす業務提携の形とは

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2020/07/22

業務提携とは、企業が開発技術やノウハウ、知的財産、あるいは人材などのリソースを持ち寄り、協力関係を築くことで双方のビジネスにさまざまな相乗効果をもたらすことを目的とするもので、オープンイノベーションの1つの形である。

大企業とスタートアップの業務提携は、双方にメリットをもたらす。大企業は、例えばリスクを伴う新規事業の開発に際して、一定の成果を上げている社外のスタートアップの開発力を活用し、事業領域を広げることができる。

一方スタートアップは、大企業が持つさまざまな経営資源を活用して、ビジネスアイデアの実現性を高められる。

なお、業務提携と資本提携とを同時に行う場合もあり、これを資本業務提携と呼ぶ。資本業務提携では、業務提携としてパートナー企業がリソースを提供し合い製品やサービスを共同開発することに加え、大企業からベンチャーへの出資を行うなどにより資本的な結びつきを得る。緊密な協業関係を作る上で有効な手法と考えられ、M&Aを念頭に置くこともある。

今回は、大企業とスタートアップの業務提携の事例を紹介する。

業務提携の種類と事例

業務提携には「技術提携」「販売提携」「生産提携」の3種類がある。その中で「技術提携」はさらに「共同開発」と「技術提供」に分かれる。

以下にそれぞれの事例を紹介しよう。

●技術提携―共同開発

共同開発とは、複数の企業が協力して新製品や新技術を開発することだ。パートナーとなる企業が持つ技術や人材などを相互に提供し合うことで事業目的の達成を目指す。

共同開発のメリットは、開発スピードが加速することだ。新たなビジネスを起ち上げるためには相当な開発時間を要するが、技術やビジネスのライフサイクルが短い現代においては、スピーディーな開発によってビジネスチャンスを逃さないようにしたい。共同で開発を進めることで時間を短縮できるメリットは大きい。

また、共同開発ではパートナー企業間で開発費用を分担するため、一社当たりの費用負担が軽減される。従って、もし失敗してもリスクが分散されているため、より大胆な挑戦もできる。

併せて、共同開発により開発された製品や技術に関して、知的財産権の権利者となる点も忘れてはならない。場合によっては特許権などのライセンスによる収益があげられる。

以下に共同開発の事例をいくつか挙げよう。

・大阪ガス&HACARUS(ハカルス)

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(画像出典:HACARUSウェブサイト

2019年8月、大阪ガスと京都のAI(人工知能)企業であるHACARUSが、インフラ業務効率化を目指した共同開発で業務提携契約を締結した。

大阪ガスは1897年創業、ガスの製造・供給、LPGの販売、電力の発電・販売などを行う大企業だ。同社はIoT技術を活用した給湯器を手がけるほか、データ分析専門組織を約20年前から設置している。

HACARUSは、スパースモデリングという少量のデータから特徴を抽出する技術をディープラーニングに応用しているスタートアップだ。

一般に、ディープラーニングには大量のデータが必要であり、かつそのデータを処理する高性能で高価なコンピューターを必要とするが、スパースモデリングでは少量のサンプルデータによる解析が可能であり、データの計算は低消費電力の機器で十分動作する。

例えば、MRI撮影には長時間の撮影が必要だが、スパースモデリングを用いて体内の画像のうち最も重要な部分を抽出することで、短時間で鮮明な画像を生成できる。

大阪ガスは、AIを用いた地中のガス管探査や、不良製品の検知などにおいてHACARUSのスパースモデリング技術を活用する。2020年4月、大阪ガスはHACARUSへ数億円規模の出資を決めている。

・セイコーエプソン&エレファンテック

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(画像出典:エレファンテックウェブサイト

2019年7月、セイコーエプソン株式会社(以下、エプソン)は東大発のスタートアップ企業であるエレファンテックと印刷分野での共同開発を開始した。

エプソンは1942年創業、プリンター製造のほか、産業用ロボットのロボティクス分野にも事業を展開している。

エレファンテックは、インクジェット印刷と銅めっきを用いた環境に優しい独自の製造方法で、フレキシブル基板である「P-Flex」の製造および販売をしている。設立は2014年。

フレキシブル基板とは「フレキシブルプリント配線板」のことで、薄くて柔らかい上、曲げても機能が変化しないメリットがある。

エプソンは今回のエレファンテックとの共同開発によって、プリンタブル・エレクトロニクス(またはプリンテッド・エレクトロニクス、印刷技術を応用し部品などの機器を製造する技術)などの新市場を開拓し、産業利用を加速させる。

またエレファンテックは、エプソンからの出資や共同開発によって、「P-Flex」製造事業の拡大はもちろん、バイオ材料の印刷(細胞パターンを作成し、医学や薬学分野で活用される)など、技術の応用範囲を広げて市場開拓を目指す。

・独ZF&米TuSimple

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(画像出典:TuSimpleウェブサイト

2020年4月、ドイツZF社と米TuSimple社は自動車製造分野における共同開発の業務提携を発表した。

ZF社は1915年創業の自動車部品製造企業だ。2018年時点で世界40カ国に230の事業所を展開しており、自動車関連部品の開発・生産・販売・サービスのネットワークをグローバルに構築している。同社のAIを使った車載コンピューターや電動化技術の研究開発費は22億ユーロ(約2,520億円)に上る。

TuSimple社は自動運転トラックのスタートアップで、設立は2015年。日本や北京、上海にもオフィスを構える。同社は40台を超える自動運転トラックを運用しており、米国の貨物運送会社UPS (United Parcel Service) など18社と契約している。自動運転トラックの安全性と効率を高め、運用コストを大幅に削減することで、8,000億ドル(約84兆8,800億円)規模の米国のトラック運送業界を変革することを目指している。

この業務提携の下で、両社はカメラやLiDAR(レーザー光によって対象物までの距離や性質を特定する光センサー技術)、レーダー(方向や距離を測定する電波)、ステアリング(進行方向を変えるためのシステム)、自動運転用コンピューターなどを共同開発する。またZF社は、TuSimple社の無人運転システムをサポートし、商用車向け量産システムのサプライヤーとしての役割も果たすとしている。

●技術提携―技術提供

技術提携のうち、すでに他社が所有している技術を自社の技術開発に活用することによって新たな事業領域を広げることを目的とする場合がある。これを技術提供という。技術提供には共同開発と同じく、開発速度を早め事業リスクの分散も可能にするというメリットがある。

・NTTデータ&インフキュリオン・グループ

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(画像出典:インフキュリオン・グループウェブサイト

2020年3月、NTTデータはインフキュリオン・グループと資本業務提携し、金融サービス分野において互いに技術提供を行う。

NTTデータは、データ通信やシステム構築などの情報サービス事業を行う業界最大手。日本電信電話(NTT)のデータ通信事業本部がその原点で、同社の連結子会社でありNTTグループ主要企業の一つだ。

インフキュリオン・グループは、金融・決済領域を中心としたテクノロジーを強みとするフィンテック・スタートアップだ。金融口座と連動しQRコード決済を行うサービス「ウォレットステーション」を、金融機関や提携企業向けに提供している。

今回の技術提携により両社は、NTTデータ側の金融システムにおける高度なノウハウと、インフキュリオン・グループが提供する「ウォレットステーション」の機能を掛け合わせ、BaaS (Banking as a Service, スマートフォン向けアプリケーションに必要な金融機能を提供するサービス) を基盤に新たな銀行向けウォレットサービスを2020年度中に提供するとし、今後3年間で30億円の売り上げ目標を掲げる。

●販売提携

販売提携とは、自社の持つ販路、または商品・製品を提携企業に提供することだ。

新しく販売エリアを開拓する際、提携先から販路の提供を受けることで商品・製品をスムーズに販売できる。

また、新しいビジネス分野に進出する際に、提携企業から商品・製品の提供を受けることで既存の販路を活用できる。

・日鉄興和不動産&600(ろっぴゃく)

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(画像出典:600ウェブサイト

2020年3月、日鉄興和不動産は600社に2億円を出資し、マンション共用施設内の需要開拓で両社は業務提携した。

日鉄興和不動産は、1952年創業の興和不動産が源流であり、日本製鉄グループに属する不動産会社。オフィスビルや物流施設等の開発・賃貸・管理、マンション・戸建住宅の開発・分譲・賃貸などを行う。

600社は、独自に開発した自動販売機で無人コンビニエンスストア「600」を展開するスタートアップだ。菓子やカップ麺、飲料、日用品など、1台で100品を取り扱い、週に2回、商品の補充を行う。利用者は専用端末にクレジットカードを通し、商品を取り出すだけで自動的にクレジット決済される。

自動販売機はKDDIやLINE、トヨタなど従業員1,000人以上の大企業を中心に、都内23区内のオフィス、マンションの約100カ所に導入されている。「LINE@」等のチャットツールで希望の商品を直接リクエストすることも可能だ。

日鉄興和不動産は、2020年4月~2023年3月に着工予定の約60棟の集合住宅に「600」を導入する予定で、居住者の利便性向上を図るとともに、600社の販路拡大を支援するとしている。

また、600社はこれまで、ダイドードリンコ、森永製菓とも提携関係を結んでおり、「600」は、メーカーが発売前の商品をテスト販売する場としても活用されている。商品の購入層、購入時間、頻度、併売商品などのデータをメーカー側に提供できるため、さらなる提携関係の深化も期待される。

・楽天&Yper(イーパー)

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(画像出典:OKIPPAウェブサイト

2020年4月、楽天は物流系ITスタートアップのYper株式会社と提携関係を結び、「Rakuten EXPRESS」の配送手段にYperが提供するサービス「OKIPPA(オキッパ)」を加えた。

「Rakuten EXPRESS」は、楽天グループで販売する生活用品や日用品、本、家電、ファッションなどを配達する配送サービス。全国36都道府県でサービスを展開している。

OKIPPAは、受け取り手不在による再配達の問題を解決するため、住宅敷地内への置き場所指定配達「置き配」を提供するサービスであり、利用者が、ネット注文の際に「OKIPPAへの配達希望」を選択することで、配達物をあらかじめドアの取手に吊り下げた専用のバッグに入れるサービスだ。

専用アプリでは配送状況も確認でき、荷物が届くと配達完了の通知が届く。OKIPPAによって荷物を待ったり再配達したりする受け取り手のストレスを解消でき、配達員の負荷も軽減できる。

なお、配送会社8社(ヤマト運輸、日本郵便、佐川急便、西濃運輸、福山通運、Amazonデリバリープロバイダー各社、Rakuten EXPRESS、カトーレック)の再配達依頼もOKIPPAアプリで完了する。

●生産提携

生産提携とは、生産・製造の工程の一部を提携企業に委託することを言う。生産提携の最大のメリットは、自社での設備投資や人材投入が不要になることだ。

一方、製造側は生産量を確保でき工場の稼働率が上がるので、共に収益の拡大が見込める。

・ニチレイフーズ&DAIZ

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(画像出典:DAIZウェブサイト

2020年1月、ニチレイフーズとDAIZは、植物肉の商品開発における協業のため資本業務提携を締結した。出資金額は5000万円。

ニチレイフーズは、ニチレイグループの「加工食品事業」を担う企業。売上の90%以上を冷凍食品事業が占めている。

DAIZは、植物由来の代替肉製品を開発・製造するスタートアップだ。同社は、九州大学と京都大学との共同研究により、大豆の味や機能性を自在にコントロールできる独自の技術によって大豆由来の植物肉原料(ミラクルミート)を開発した。

世界的な人口増加と新興国の経済成長により、2030年にはタンパク質の需要が供給を上回る「タンパク質危機」の時代が到来すると予測されている。そこで、代替タンパク質として植物肉の世界市場は9兆円を超えると見積もられている。

両社は、ニチレイフーズの商品開発力、販売力とDAIZの植物肉原料を掛け合わせ、日本の植物肉市場の拡大を目指し「第四の肉として植物肉を食す」という食文化の浸透を目指す。

大企業による提携への3つのステップ

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(画像出典:三菱総合研究所

ところで、こうした大企業とスタートアップの業務提携の起点は何か。大企業からアクションを起こしてスタートアップと提携する場合、概ね、上図のようなステップを踏む。

「ステップ1:情報収集・コネクション構築の段階」

この段階では、大企業側からスタートアップへのアクセスを試みる。スタートアップを対象としたビジネスコンテストの開催、アクセラレータ・プログラムの実施(後述)、VC(Venture Capital)へのLP(Limited Partner、資金額を責任限度とする出資者)参画などを行う。スタートアップへの関与が少ない分、大企業側にとってはリスクを回避しやすい。

「ステップ2:連携試行の段階」

大企業側がスタートアップと連携を試みる。ステップ1を通じて関係を構築した有望スタートアップとの間で業務提携関係を構築したり、マイナー出資を行い、PoC(Proof of Concept、新しいビジネスアイデアが有用であることを示すための検証)などを行う。本稿で紹介した業務提携がこのフェーズだ。

「ステップ3:新規事業を大きく育て上げる段階」

大企業がスタートアップと新規事業を立ち上げる。具体的には、ステップ2を経て、スタートアップへの大型出資やジョイントベンチャーの設立、M&Aを行う。

ただし、国内においてはステップ2段階にあるケースが多く、この段階まで進んでいる事例は多くない。

スタートアップを発掘・育成するアクセラレータ・プログラムの活用

大企業がスタートアップとの接触を試みる機会(ステップ1)の1つにアクセラレータ・プログラムがある。

アクセラレータ(Accelerator)とは、起業直後のスタートアップに対してビジネスノウハウや資金投資など、事業の起ち上げのためのさまざまなサポートメニューを提供して急速な成長を促す組織のことを言う。主に大企業や自治体が主体となることが多い。

そのアクセラレータが共創や協業のために、あるいはイノベーションを実現するために有望なスタートアップを発掘するためのプログラムがアクセラレータ・プログラムだ。

これに参加するスタートアップは、通常、数週間~数ヶ月の間に、ビジネスモデルの再構築、 マーケティング、プレゼンのノウハウなどのプログラムを消化する。この間、アクセラレータ内のメンター、あるいはスタートアップ経験者、スタートアップ企業の経営陣、ビジネスに関する各分野の専門家などからビジネスの成長、拡大に必要なアドバイスを受けられる。

そして、プログラムの最後に投資家に向けてプレゼンを行い、新たな出資や協業の機会を得ることでアクセラレータ・プログラムを修了する。こうしたプログラムを活用して、大企業と協業関係を構築し、ビジネスシーンに乗り出すのもスタートアップにとっては有効だ。

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大企業とスタートアップの提携における課題と期待

共にビジネスの拡大とイノベーションの実現を目指して手を組んだとしても、大企業とスタートアップの提携においては、課題があることも理解しておきたい。

2019年の米BCGの調査によれば、大企業がスタートアップとの提携に不満があると回答したのは全体の55%、逆に、スタートアップが大企業に不満があると回答したのが45%と報告されている。

意思決定に時間のかかる大企業と機敏に反応するスタートアップとのスピード感の違いや、ビジネスの成果の評価軸における価値観の違いなど、不満の原因はさまざまだ。

一方「大企業とスタートアップの提携が今後、2022年までにどうなると思うか」という質問に対して、スタートアップの86%がパートナーシップの数が増えると予想しており、大企業の55%がそれに同意している。

大企業とスタートアップの提携において選択肢のひとつとなるアクセラレータ・プログラム。このような取り組みを通して、これからも多くのスタートアップが育つことに期待したい。

(※為替レート:2020年5月6日現在)

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