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スタートアップの資金調達にとどまらないCVCとは~2019年の国内CVC事例を見る

スタートアップの資金調達にとどまらないCVCとは~2019年の国内CVC事例を見る

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2020/01/27

企業活動では、内部留保を設備や人材確保、育成などに再投資することで、新規の事業領域の開拓などの競争力強化に取り組むが、その手法の一つとして、今、注目されているのがCVCだ。今回は、企業がイノベーションを起こすための新たな解決策であるCVCの現状とその事例を紹介する。

CVCとは何か?

CVCの現状

CVCとはCorporate Venture Capitalの略で、主に大企業が自社の事業とのシナジー効果を目的として、主にスタートアップ(ベンチャー企業)に対して出資を行うことを言う。

昨今、スタートアップ企業の資金調達の方法として、VC(Venture Capital)からの投資や合併、買収によるM&A(Mergers and Acquisitions)という手法に加えて、このCVCという資金調達方法が注目を集めている。投資側である事業会社のイノベーションにもつながることから、国内でもその事例が増えてきた。

PwC Japanグループの「CVC実態調査2019」によると、国内では2018年、過去最多となる16社がCVCを起ち上げている。

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(画像出典:PwC「CVC実態調査2019」資料

また、投資金額も増加の一途をたどっており、2018年には211億円の投資が実行されている。ちなみに、このCVCを含めた事業会社によるベンチャー企業への投資額は、2018年には2,174億円にまで達し、国内におけるベンチャー企業への投資額全体の48%以上を占めている。

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(画像出典:PwC「CVC実態調査2019」資料

M&A、VCとの違い

自社事業との相乗効果を目的とするという点では、CVCはM&Aと共通しているが、M&Aの場合、自社の競争力の強化やコングロマリット(多数の業種での事業を行う複合企業)による新規事業の開発などを目的として、吸収合併や新設合併、あるいは株式譲渡などの買収によって行われる。

M&Aは、合併または買収する相手先企業に支配的に介入するので、経営の中枢にまで入り事業を直接コントロールすることも可能となるが、当然ながら合併や買収には相当の費用がかかる。

それに対して、CVCは事業提携という形で相手先企業と協働するため、完全な支配力を行使することはできないが、M&Aと比較すると低コストで連携することができる。

事業の遂行はある程度相手先スタートアップ企業に任せることになるが、活用方法としては、例えば、部分的にR&D(Research and Development)業務を委託することで、それらに要する時間やコストを抑えながら新規事業の領域を広げることも可能になる。

また、スタートアップが持つ起業家精神や企業文化を自社に取り入れることで、社内に埋もれた技術の事業化や新規ビジネスとしての起ち上げを促すといった効果も期待できる。

VCとの比較では、将来性のあるスタートアップに出資するという点では類似しているが、目的は大きく異なっている。

ほとんどのVCは、投資家から調達した資金をスタートアップに投資し、そのスタートアップが成長することでIPO(株式上場)などの株式売却から得られる財務リターンを目的としている。この場合、VCは投資家に対して一定期間内に投資資金を回収する義務を負っている。

他方、CVCは、財務リターンを完全に求めないわけではないが、スタートアップとの協業による研究開発体制の強化や事業開発の推進の結果、自社事業が成長するという戦略的リターンの獲得に軸足を置いている。

多くの場合、CVCが投資先のスタートアップを評価する際は、通常のVCよりもその業界に関する知見が豊富で情報量も多い。自社の事業領域に戦略的にフィットするかどうか、投資案件を検討するためのシステムも整備されている。従って、投資先のスタートアップの選定条件もVCとは自ずと異なってくる。

スタートアップ側としては、大企業のアセットを活用してより大きな事業に挑戦できる上、CVCから投資先として認められることが自社の信用力向上にもつながる。

加えて、投資した事業会社がそのスタートアップの顧客になり、事業会社が持つグローバルなネットワークを活用することも可能になる。結果、スタートアップの実績に貢献することとなり、スタートアップ自体の企業価値を上げることにもつながる。

CVCの課題

このようにCVCにはM&AやVCとは異なるいくつかのメリットがあるが、一方で課題もないわけではない。例えば、投資を行う事業会社とスタートアップとの間での、いわゆる時間感覚のギャップだ。

一般にCVCは、投資判断をしてから社内の事業部門や法務部、役員会議などの承認を経て実際に投資するまでには相当時間がかかると言われる。

その意思決定に時間を要するために、スタートアップの成長時期に本来の強みである事業開発のスピードが活かせず、市場を確保する好機を逃す、投資ラウンドに参加するタイミングを逸するというケースもあり得る。

また、時間が流れる間に、そもそものビジネスモデルが変わってしまったり、資金不足に陥って事業の継続ができなくなったりすることもスタートアップ業界にはありがちだ。

協働関係が長く続く中では、事業の目的や方針などを巡って双方の合意が得られないケースもあり得るし、必ずしも期待していたシナジー効果が得られないことも十分起こり得る。

数年後の事業会社とスタートアップとの関係を予想することは難しいが、CVCによって実現したいことを、双方が常に確認し共有を怠らないことが肝要だろう。

2019年のCVC事例(国内)

日本国内ではどのようなCVCが運用されているのか、いくつか事例を紹介する。

三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)

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(画像出典:三菱UFJイノベーション・パートナーズ

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、2019年1月11日、フィンテック関連のスタートアップ企業との協業強化によるオープン・イノベーションを推進するため、CVC「三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)」を設立した。

MUFGは、戦略出資を通じたフィンテック関連スタートアップ企業との協業推進に取り組んで来たが、昨今、スタートアップの資金調達がグローバル化かつ大型化しているという環境の変化を受け、より戦略的かつ迅速なベンチャー投資を行うため、MUIPがスタートした。

MUIPはMUFGグループ各社の出資により新たに200億円のファンドを組成し、MUFGグループ各社と出資先との協業および事業シナジーを追求するとしている。

MUIPでは、以下の3つの「S」を実現するために、スタートアップと事業部門との間をつなぐ人材を各部門に配置している。CVCでのキャリアを10年以上積んだ人材を登用している点などは、意思決定の速さを実現しようという意欲が伺える。

1)スピード(スタートアップの経営スピードとのマッチング)
2)シナジー(MUFG各社とスタートアップとの事業シナジーの優先)
3)スペシャリティ(No.1 CVCプロフェッショナル集団をめざす)

MUFGではMUIPを通じて、2019年2月の日本にて家計簿アプリを提供するMoneyTree社への出資を皮切りに、ブロックチェーン関連ではコンプライアンス技術を提供する米Chainalysys、証券化プラットフォームを提供する米Figure、Securitizeに出資している他、SME(中小・中堅企業)向けに会計ソフトや銀行入出金のデータ等をベースに貸付を行うイスラエルのFundboxとLiquidity Capital、米BlueVineなど十数社への出資を実行。CVC設立後、その出資件数も急増すると共に、出資先も海外の最先端のFintechスタートアップが中心を占めており、大きな成果を上げている。

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(画像出典:Securitizeウェブサイト

参考:より戦略的なベンチャー投資にむけて──MUFGのファンド運営会社が本格始動

丸紅ベンチャーズ

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(画像出典:丸紅ウェブサイト

丸紅株式会社は2019年6月、国内外のスタートアップを対象に投資を行う「丸紅ベンチャーズ株式会社」を設立した。出資総額は50億円で、日本、米国、アジア、イスラエル、エストニア等のアーリーステージのスタートアップを対象にしている。

同社は2019年から2021年までの中期経営戦略において、9,000億円規模の新規投資を計画している。うち2,000億円を「ホライゾン3:White Space」として、現状では取り込めていない領域や新たなビジネスモデルの成長に充てる計画だが、外部提携と自社機能強化の方策としてCVCが挙げられている。

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(画像出典:丸紅「GC2021」PDF資料

同社は「国内外のスタートアップとの連携・共創をこれまで以上に能動的かつ、スピード感をもって推進する」としており、前述の事業会社とスタートアップとの時間感覚のギャップについて意識していることが伺える。

博報堂DYベンチャーズ

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(画像出典:博報堂DYベンチャーズウェブサイト

株式会社博報堂DYホールディングスは2019年7月、CVCとして株式会社博報堂DYベンチャーズを設立した。

「ベンチャー企業との連携を深め、革新的なテクノロジーや新たなビジネスモデルで生活者や社会の未来を共にデザインする」ことを目的として、「HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUND」を組成、2019年度~2023年度の5年間で100億円規模の投資を行う予定だ。

主に国内の革新的テクノロジーを有する企業、新たなビジネスモデルの創出に取り組むスタートアップを中心に、シード(起業前もしくは会社設立直後で事業のスタート直前の段階)からレイター(イグジットを目指して更に業容を拡張し十分な売上や利益の確保を求められる段階)まで幅広いステージを対象とする。

2019年8月には、高度な人工知能モデルを量産型コンピュータへ搭載するエッジコンピューティング技術を有するIdeinに出資した。

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(画像出典:Ideinウェブサイト

同社がサービス展開する「Actcast」は、ソフトウェア技術を利用して実世界の情報を取得し、ウェブと連携するIoTシステムを構築・運用するためのプラットフォームサービスだ。セキュリティ、産業IoT、リテールマーケティングなど様々な分野で利用できる。

また、2019年9月には、顧客行動を可視化しリアルタイムに課題を提示するリテールテック(リテール事業にITやIoT技術を導入することで実現される技術やサービス)ソリューションを有するFlow Solutionsに出資している。

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(画像出典:Flow Solutionsウェブサイト

同社は、小売業の店舗における来店率・店内動向などの顧客行動を可視化し、売上データなどと統合し分析することで、リアルタイムに「今、行うべきアクション」をレコメンドするソフトウェア「InSight」を開発している。

なお、同CVCが目を引くのは、クリエイティブ、マーケティング/データ、メディア/コンテンツ、ビジネスデベロップメント等の領域における博報堂DYグループの専門人材を同ファンドの「カタリスト(触媒)」としている点だ。

単なる投資にとどまらず、こうした細やかな人的支援がCVCの成否を分けることも想像される。事業会社とスタートアップが、歩調を合わせて事業共創を推進するための取り組みとして成果が期待される。

日本航空

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(画像出典:JALウェブサイト

日本航空(JAL)は2019年1月、約80億円規模のCVC「Japan Airlines Innovation Fund」を設立した。有力VCとして実績のあるシリコンバレーのトランスリンクキャピタルとの提携により、投資案件の発掘から投資実行、投資後の支援までを行う。運用期間は10年間だ。

同社はCVCによって、航空機の搭乗前後も含めたドアtoドア、エンドtoエンドのシームレスな移動に関連する事業を創出することを目的としている。

なお、同社は2013年から投資事業をはじめており、人類の生活圏を宇宙に広げることを目指すispaceとは、すでに月面着陸船の組み立てや溶接、検査の他、成田空港の整備施設を一部提供するなど、協業関係ができている。

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(画像出典:ispaceウェブサイト

西部ガス

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(画像出典:西部ガスグループSGインキュベート株式会社ウェブサイト

西部ガスは2019年4月に、100%出資のCVC「SGインキュベート」を設立した。同社はスタートアップ企業に投資する九州初のCVCだ。本業のガス事業とのシナジー効果にこだわらず、国内外のスタートアップや他のファンドに年間計10億円程度の投資を見込む。

同社は2019年11月、エアーモビリティ(「空飛ぶクルマ」とも呼ばれる、空域を利用した交通手段)社会の実現を目指すA.L.I. Technologiesに出資している。

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(画像出典:A.L.I.ウェブサイト

Future Food Fund

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(画像出典:Future Food Fundウェブサイト

オイシックス・ラ・大地株式会社は10月、フードイノベーション領域に特化したCVC「Future Food Fund」を設立した。11月にはモスフードサービスもLP(有限責任組合員)として参画している。

「栄養学や味覚に関する研究・技術」「食とヘルスケアに関する研究・サービス」「新しい食材」「農業技術」「レシピサービス」「調理家電」など、食文化に特化した投資・提携領域とし、年10~15社への出資を目指す。

Future Food Fundでは投資するだけにとどまらず、オイシックス・ラ・大地株式会社が運営するECサイト(Oisixクラフトマーケット)でのテストマーケティングやデータ分析、LPとして参加する事業会社の物流や生産、商品開発、マーケティングノウハウの活用など、幅広い支援が可能としている。こうした支援により、スタートアップの持つ新技術や新サービスをより早く実用化・事業化できる。

なお、同CVCは食品領域で起業するのに最適な環境を提供する米KITCHEN TOWN、食に特化したベンチャーキャピタルであるPower Plant Ventureとも提携関係にあり、海外の食関連のスタートアップ企業への投資にもつなげる意向だ。

2019年のCVCはまさに目白押しと言っても過言ではないが、今後、ますます活況を呈することが予想される。スタートアップは、資金調達のみならず事業性のシナジー効果によってビジネスの成長が期待できるCVCのチェックを怠らないようにしたい。

(※為替レート:2019年12月4日現在)

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