tr?id=1970953653177752&ev=PageView&noscript=1

サブスクリプションモデルにおけるカスタマーサクセスとは~顧客の期待に応え成果を上げるオペレーションを探る

サブスクリプションモデルにおけるカスタマーサクセスとは~顧客の期待に応え成果を上げるオペレーションを探る

860view

2020/01/08

時代はサブスクリプションへ

かつては、車や家、家電や衣服といったモノを購入することは消費者にとってごく当たり前の行動だった。だが現代では、「モノを所有」するのではなく、毎月定額の料金を支払って「サービスを利用する」ことで生活面でのさまざまなニーズや課題等の解決を目指すサブスクリプションが定着し始めている。

アメリカの市場調査会社であるハリス・インタラクティブは、世界12カ国、1万3,000人以上の成人を対象にした調査で、57%の人が所有物を減らしたいと考えており、また71%の人が何らかのサブスクリプションサービスに加入している、と報告している。5年前の2014年には53%であったことから、サブスクリプションが着実に拡大を続けていることがうかがえる。

デジタル化が進むと共に働き方が多様化し、地方・海外への移住や中長期の滞在も珍しくなくなってきた昨今、モノを所有せずにサブスクリプションサービスを利用するのは合理的であり、なるべく無駄な消費を減らす傾向の強い、とりわけミレニアル世代にとっては、ごく自然な流れと言えるかもしれない。

サブスクリプションがどれほど人々の生活に定着し、どのような分野でサブスクリプションモデルを採用したビジネスが登場しているかについては、以下の記事をご覧いただきたい。

モノの所有からサービスの利用へ~顧客のニーズに応える注目のサブスクリプションサービス6つの事例

サブスクリプションのメリットとデメリット

サブスクリプションモデルとは、顧客が毎月(または毎年)定額の利用料を支払い、企業が提供する製品やサービスを利用できる仕組みのことだ。

トヨタ自動車が提供するKINTOは月額4万円台からトヨタの車を定額利用することができ、動画配信のNetflixは月額800円(税抜)から映画やドラマを見放題で楽しむことができる。コーヒーやラーメンのサブスクリプションサービスも登場するなど、今やサブスクリプションはさまざまな分野のビジネスに浸透している。

2013年までソフトバンクで社外取締役を務めていた起業家・実業家のスニル・バーティ・ミタル氏は、米Forbes上でサブスクリプションモデルを成功させる鍵として、以下の5つの要素を挙げている。

・定期的な収益の確保
・製品の受け入れ率と利用率の最適化
・解約を最小限に抑制
・LTV(Life Time Value:顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益)の最大化
・アカウントの拡張(グレードアップ)と契約更新の増加

事業者にとって、サブスクリプションモデルの最大のメリットは、顧客がそのサービスに満足している間は、継続的に一定額の収益を得られる点にある。契約している顧客が実際にはサービスをほとんど利用しなかったとしても、利用料は変わらない。

一方、顧客はいつでも自由にサービスの利用を中止し、他社へ乗り換えることができる。例えば、動画配信のサブスクリプションサービスだけでも、NetflixにAmazonプライム・ビデオ、Huluなど多くの選択肢が存在する。顧客は利用料金だけではなく、得られるサービスの質と量、そして種類を常に意識している。従って、こうした顧客の興味を常に引きつけるためには新たな価値を継続的に提供しなければならない。

つまり、いかに解約(サービスからの離脱)を減らし、顧客に提供できる価値を上げていくかがサブスクリプションビジネスの成功の鍵だ。

サブスクリプションの基本的な構造と、サブスクリプションモデルが採用されている主な例は、以下の記事を参照されたい。

サブスクリプションとは? OODAループと相性が良い、新時代のビジネスモデル

また、サブスクリプションビジネスの解約対策については、以下の記事を参照していただきたい。

急成長するサブスクリプションモデル その解約対策に迫る

カスタマーサクセスを活用せよ

さまざまな企業がサブスクリプションモデルを採用し、競争が激化しつつある中、サブスクリプションモデルを成功させるためのキーワードとなるのが「カスタマーサクセス」だ。

カスタマーサービスが顧客からサポートを求められた時に対応するという受動的なものであったのに対し、カスタマーサクセスでは企業の方から顧客へ能動的に働きかける。新しい商品やサービスのプロモーション、アンケート、レコメンドなどを積極的に行い、顧客の満足度を上げていくことで継続利用率を高める手法だ。

自社のサービスを継続的に利用してもらうことで収益を上げるサブスクリプションモデルには、このカスタマーサクセスのノウハウが必要不可欠だ。

ちなみに、サブスクリプションモデルにおいては、顧客との関係性を継続的に維持できるため、過去の利用実績に基づいて個々の顧客の嗜好に沿った商品やサービスを提供できる、いわばOne to Oneマーケティングによるカスタマーサクセスが実現できる。

カスタマーサクセスを指標化・分析し追求していく方法は、田所雅之氏のインタビュー記事に詳しい。

スタートアップはプロダクトより先にUXを設計せよ~カスタマーサクセスの追求こそが成功の近道

では、サブスクリプションを採用しているビジネスにおいて、カスタマーサクセスはどのように実行されているのか。各社の事例を見てみよう。

Netflixが追求するカスタマーサクセス

今やサブスクリプションモデルの代表格とも言えるNetflixが、動画のストリーミング配信によるサブスクリプションビジネスを開始したのは2007年だ。2019年には全世界の有料会員数が1億5,000万人を突破した。

動画のストリーミング配信サービスは、これまで映像コンテンツを楽しみたい顧客がビデオやDVDなどの媒体を購入したり、映画館に出かけたりするという消費スタイルを根底から変えた。今では月々の定額利用料金を支払えば、好きな作品を好きな時に好きなだけ楽しむことができる。

Netflixの場合、顧客がまず期待するのは「そこに観たいドラマや映画がある」ということだ。今や、動画のストリーミング配信サービスはさほど珍しいものではなくなった。その中で選んでもらうためには、Netflixでしか観ることができないオリジナルのコンテンツが必要だ。Netflixが映像製作に投じる年間の予算は1兆円以上と言われている。興味を引くコンテンツを作り出し、顧客のNetflixへの期待感を満足させている。

ここでポイントとなるのが無料体験期間だ。Netflixは一ヶ月の無料体験期間を設けており、この期間中であれば顧客はいつでも利用をキャンセルできる。「無料だしとりあえず契約してみるか」「あの作品だけ観て解約するか」という心理を働かせハードルを下げることで、まずは顧客をプラットフォームに招き入れている。

この無料体験期間が、カスタマーサクセスに欠かせない「慣れのプロセス」になる。この期間にもNetflixが製作するオリジナル映画、ドラマ、アニメといったコンテンツが次々と投入される。Netflixはオリジナルコンテンツで新規顧客を獲得するだけでなく、既存の顧客の契約継続も促す。顧客が視聴した作品の傾向を元に、新たなコンテンツが登場したことをEmailやNetflixのプラットフォーム上で顧客に知らせ、最初は「お試し」だった顧客のカスタマーエクスペリエンスを向上させ、魅了していく。

Netflixの有料会員約1億5,000万人がそれぞれ年間1万円をNetflixに支払っていると仮定すると、年間の総収入は150億ドル(約1兆6,350億円)にのぼる。この数字を見れば、膨大なコンテンツ製作費も決して高すぎるということはない。

このように、Netflixほどの巨大なサブスクリプションサービスであっても、カスタマーサクセスを前面に置いた能動的なオペレーションに取り組んでいる。重要なのは、プロダクトあたりの収益性ではなく、いかに顧客にリーチし、カスタマーエクスペリエンスを向上させて期待に応えていくかということにフォーカスすることだ。

Chargifyの提供する解約防止対策

Chargifyは支払い請求の管理ソフトを月額定額制のサブスクリプションモデルで提供するBtoB型の企業だ。元々は、取引先件数が50件以内のユーザーは無料でサービスを利用することができ、51件以上になると月額45ドル(約4,800円)が課金される「フリーミアム」と呼ばれるビジネスモデルを採用していた。

だが、Chargifyの取引先の多くが中小企業で取引先も限られていたためにほとんど収益が上がらず、同社は一時、倒産寸前にまで追い込まれた。そこで、サブスクリプションモデルに切り替え、最低価格を月額65ドル(約7,000円)としたことで業績は回復した。

実は、サービス自体の質が高く、有料化しても同社のサービス利用を継続したいと考えるユーザーが数多く存在していた。また、有料化した後には、無料体験版の導入や、30日間の返金保証期間を設けるなどして新規ユーザーにも門戸を開いている。Chargifyの事例はフリーミアムかサブスクリプションかで、その企業の存続自体が大きく左右されることを示している。

その後、Chargifyはサブスクリプションモデルに移行して培ったノウハウを活かし、自社でサブスクリプションモデルを採用している企業に対して、顧客への支払い請求作業を自動化・効率化するSaaS(Software as a Service:パッケージではなくクラウドで提供されるソフトウェアのこと)を、同じくサブスクリプションモデルによって提供している。

さらに同社が提供するサービスでは、サブスクリプションを解約する可能性がある顧客を検知するシステムが導入されている。

通知に無反応なアカウント、あるいはアクティブでないアカウントなどにフラグを立てることで、サービスを解約する可能性がある顧客をソフトウェア上で可視化する。そして、可視化された顧客に対して、サービス提供者側からコンタクトを取り、エンゲージメントを高めていくことで解約率を下げるというものだ。

こうした顧客の次の行動を事前に予想する仕組みは、カスタマーサクセスにおいて重要なプロセスであり、「サブスクリプションを管理するサブスクリプション企業」のノウハウとデータが生きていると言える。

HubSpotのカスタマーサクセス10ヶ条

サブスクリプションモデルでマーケティングツールなどを提供しているHubSpotは、顧客である企業にカスタマーサクセスを実践するためのツールも提供している。

例えば、2018年にHubSpotがリリースしたService Hubでは、顧客からのフィードバックを得るためのアンケートや、データを活用して顧客ごとのニーズに合わせたOne to Oneマーケティングを実施するツールを提供している。そうして、「顧客の顧客」の満足度を高いレベルまで導くことをHubSpotは目標としている。

HubSpotの公式サイトでは、同社のカスタマーサクセスに関する取り組みが紹介されており、スタッフのインタビュー動画を公開するなど、彼らが顧客の満足度を高めることをいかに重要視しているかが理解できるようになっている。

HubSpotのカスタマーサクセス部門では、入社した最初の一ヶ月間、日常の業務外で教育を受け訓練を積むオフ・ザ・ジョブ・トレーニングを通してカスタマーサクセスのプロを育成している。

HubSpotのカスタマーサクセス部門では、担当者が独立して顧客の対応を行うのではなく、会社が一体となって顧客の成功を支えるために、マーケティングコンサルタントやエンジニアなど他部署のスタッフとも積極的に交流を図る。

そのHubSpotが2018年に公開した、「カスタマーコード」と呼ばれるカスタマーサクセスの指針が存在する。HubSpotは、「自ら情報を入手できるようになった現代の顧客は、これまで以上に厳しい要求を持ち、企業の言葉を鵜呑みにすることはほとんどありません。」と前置きした上で、以下の10の方針を示した。

1. 無理やり関心を引こうとせず、顧客を惹きつける魅力を想像すること

顧客の時間は貴重であり、売り込むより前に関心を持たせるものを提供すること。

2. 理想の顧客像としてではなく、ひとりの人間として対応すること

マーケティングにペルソナを使うのはよいが、顧客との関係性を築くにはひとりの人間として向き合わなければならない。

3. 自社のためではなく、顧客の成功のために課題を解決すること

自社内の問題は顧客にとっての問題ではない。顧客の問題を迅速に解決すること。

4. 顧客情報は顧客の利益のために活用し、自社の利益のために悪用しないこと

顧客に毎回自分の情報を入力させる必要はない。顧客の利便性に繋がるのであればデータを使ってもよいが、乱用は禁物だ。

5. 顧客からのフィードバックを求め、受け止め、行動に移すこと

顧客からの不満の声がないことは、良いことではない。顧客に直接どのように改善するべきかを尋ね、行動に移すこと。

6. 素直に非を認めること

誰でもミスはする。素直に非を認め、改善に繋げること。

7. 顧客自身で解決し成功できるように支援すること

顧客のニーズを知っているのは顧客自身である。顧客に問題の「答え」を提示してもらい、こちらは問題の「解決」にあたること。

8. 価格や料金は曖昧にせず、簡潔明瞭に伝えること

価格はオープンでクリア、かつフェアなものにすること。

9. 去るものは無理に引き止めないこと

ワンクリックで購入できるサービスを提供するなら、キャンセルも簡単にできるようにすること。89%の顧客が簡単にキャンセルできるサービスを好む。

10. 困難なときでも、正しい行いを心がけること

今の行動が会社の将来を決定する。短期的な結果よりも長期的な信頼関係の構築を目指すこと。「売ること」よりも「顧客の成功に貢献すること」を目指そう。

HubSpotの場合は、企業側が顧客の関心を引くために何度もコンタクトを試みることを否定的に捉えている。企業によって戦略はさまざまだが、本当に顧客の成功を願っての行動であるか、という点がカスタマーサクセスの要であることは間違いない。

Sonnenが受賞したカスタマーサクセス

ドイツの電力会社Sonnenは、2016年に電気料金のサブスクリプションを実現した企業だ。

プランによって出力の上限や年間の消費電力量が設定されており、大型サーバーを用いず、ブロックチェーン技術を利用して需給データを分散管理する。利用者間で電力を自動的かつリアルタイムで融通し合うことができるため、定額制が実現している。

今まで電力会社に支払っていた電気代は不要になる上、最も安い価格帯で19.99ユーロ(約2,420円)から加入できる。

Sonnenは、サブスクリプションビジネスを支援するコンサルタント会社Zouraが選んだ「Subscribed Customer Success Awards Europe 2018」において、Humanitarian (人道主義) のカテゴリーで受賞している。同賞はその名の通り、ヨーロッパにおけるサブスクリプションサービスのカスタマーサクセスを表彰する賞だ。

そして、Sonnenが自社のサブスクリプションモデルを機能させるために始めたサービスが、sonnenCommunityだ。Sonnenのサービスで電気を融通し合うメンバーをコミュニティと考え、sonnenCommunityのメンバーは無料の天気予報サービス(Sonnenはソーラー発電を利用するため)やソーラーパネルのメンテナンスといったサービスを受けることができる。

また、自家発電で余った電力はコミュニティ内で販売することもできる。電力が足りない時は追加購入し、電力が余っている時は余剰分を販売するという相互扶助の仕組みが構築されている。

この「コミュニティに所属している」という感覚こそが顧客の他社へ乗り換えるスイッチングコスト(顧客が別会社の製品・サービスに乗り換える際に発生する金銭的、心理的、手間などのコスト)を引き上げる。顧客は大手の電力会社から一方的に電力を供給されていた状態から、コミュニティを支えるメンバーとしてプロジェクトの一端を担う立場になっている。これは通常お金では買うことのできない経験でもあり、この帰属意識がカスタマーサクセスのひとつのプロセスになっている。

また、Sonnenの電力は全てクリーンエネルギーである。その理念は、ブロックチェーンを利用した分散型システムで、既存の電力供給システムを塗り替えようというものだ。sonnenCommunityに加わったメンバーは、「電力の未来」を実現するプロジェクトの一員になる。ブロックチェーンを使った電力融通サービスの「安い」「新しい」あるいは「共創」といったイメージは、新規の顧客を呼び込むのに一役買う。

このように、サブスクリプションモデルを採用するビジネスにおいてカスタマーサクセスを追求する方法はさまざまだが、いずれにせよ、解約されずに長く利用してもらうためには、経済合理性だけではなく、顧客満足を達成する戦略が欠かせない。

顧客の動向に目を配り、フィードバックに耳を傾け、顧客が真に求めているものは何かを見極める。それに応えるオペレーションが、サブスクリプションモデルの成否を分けるだろう。

(※為替レートは2019年10月29日時点)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

INNOVATION HUBの最新情報をお届けします

プログラム

コラボレーションによるイノベーション創出の場

  • MUFG SPARK

スタートアップ・アクセラレータ

  • MUFG DEGITAL ACCELERATOR

月間記事ランキング

MUFG関連記事

Facebook公式ページ