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スタートアップにこそ必要なもの~従業員エンゲージメントとは?

スタートアップにこそ必要なもの~従業員エンゲージメントとは?

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2019/12/18

昨今、企業の成長のために、従業員エンゲージメントをいかにして高めるか、という話題をよく耳にする。

今や従業員エンゲージメントの導入は、従業員自らの貢献意欲を育み、企業にイノベーションを起こし、有効な戦略を打ち立てて着実に実行していく企業文化を作るために不可欠だとされている。

そもそも従業員エンゲージメントとは何か?

企業の「人材」「リスク」「資産」のマネジメント会社であるウイリス・タワーズワトソン社は、「従業員エンゲージメントとは、従業員の一人ひとりが企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲のこと」と定義している。

従業員エンゲージメントは2000年頃、アメリカで生まれた概念だ。従来アメリカでは職種ごとに企業と契約関係を結んで仕事をするという意識が強かったため、より良い条件を求めて転職を繰り返すことは当たり前とされてきた。

しかし、そうした短期の雇用関係では従業員の持てる能力を最大に発揮する機会が減少する。その結果、企業に本来蓄積されるべきスキルやノウハウが蓄積されず、また、変化の激しい現代のビジネスシーンにあってイノベーションを起こす人材の育成や、そうした人材の定着もままならない事態となってきた。

そこで長期雇用を前提に従業員と企業との関係を再構築すべく、企業理念やビジョン、事業の目的、方針に従業員が自発的にコミットできるような制度や環境を整備するために導入されたのが従業員エンゲージメントの概念だ。

この概念が日本に入ってきたのは2008年頃とされる。日本においてこれまでの高度成長期においては、上意下達で経営が成り立つ時代が長く続いたため、従業員エンゲージメントはほとんど意識されてこなかった。

だが、日本企業の多くが、かつて世界を席巻したような製品やサービスを生み出す活力を失いつつある中、その状況を挽回するためには、個々の従業員の主体的・自発的な仕事への取り組み、事業へのコミット意識や意欲が欠かせなくなってきており、そうした人間的な資質がどれだけ発揮されるかが大きな鍵であると考えられている。

従業員エンゲージメントと業績の相関性

エンゲージメントという言葉自体はもともと「約束」や「契約」あるいは「結婚」を意味するが、従業員エンゲージメントと言う場合、勤務先に対して愛着心や思い入れを抱く従業員が感じる「絆」あるいは「結びつき」という感覚が強い。

よく混同される言葉が「従業員満足度」だが、これは職場環境や給与、福利厚生などの待遇への満足度をいい、組織が与えるものに対する従業員の評価だ。また、「ロイヤルティ」という言葉もよく聞くが、これは従業員の企業に対する忠誠心を表すもので帰属意識に基づき上下関係が存在することが前提だ。

従業員エンゲージメントはこれらとは違うものであり、上下関係に基づいたものではなく、互いに成長していくために貢献しあう関係を結ぶ、文字通り「絆」という概念が根幹にある。

従って、従業員エンゲージメントが高いレベルで維持されている企業では、従業員が企業や組織に信頼を寄せ、その理念や事業目的に共感し、その実現に貢献するために自発的に仕事に取り組むことが常態となっている。

こうした状態にある従業員はやる気があり、単に仕事をこなすだけではなく、仕事にエネルギーや労力を注ぎ、その企業に長くとどまると、米IT系調査会社ガートナーもリポートしている。

参考:What Is Employee Engagement? - Smarter With Gartner

同リポートでは、「過去10年間に繰り返し行われた調査では、従業員エンゲージメントスコアが高い上位25%の企業は、競合他社の業績を上回っている。このスコアの高さは、平均売上高成長率、純利益率、顧客満足度、1株当たり利益の高さと相関性がある。現在、ビジネスリーダーの70%が、従業員エンゲージメントはビジネス業績の達成に不可欠だという見解に同意している」としており、従業員エンゲージメントが単なる精神論ではないことが実証されている。

ちなみに、前出ウイリス・タワーズワトソン社は、「自発的に考え」「誇りと愛着を持って」「行動できる」の3つを従業員エンゲージメントの基本要素としているが、同社が独自に世界の約700社の企業を対象に調査した結果、この3つの要素が備わっている企業の成長性は極めて高く、従って、従業員エンゲージメントと業績・成長性との間には明らかに相関関係があるとしている。

また、日本においては2018年にモチベーションエンジニアリング研究所が慶應義塾大学大学院経営管理研究科ビジネス・スクール岩本研究室と共同で行った「エンゲージメントと企業業績」に関する研究において、非常に興味深いデータを公表している。

参考:「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果を公開 ~エンゲージメントスコアの向上は営業利益率・労働生産性にプラスの影響をもたらす~

この研究では、従業員エンゲージメントが高い企業は当期の営業利益率が0.35%上昇し、翌四半期の営業利益率においても0.38%上昇することが判ったとされ、その結果から、「じっくりと時間をかけて、効果を期待するものと考えられていたエンゲージメント向上は、比較的短期間で、実際に成果に寄与する」との分析が可能であり、また、労働生産性においても0.035ポイント上昇すると報告している。

他方、従業員エンゲージメントの企業にもたらすもう一つの効果に離職率の低下が挙げられる。米コンサルティング会社CEB社のリポートによると、従業員エンゲージメントの高い従業員が1年以内に離職する率は1.2%、低い従業員が離職する率は9.2%だった。また、世界的な世論調査会社である米ギャラップ社の調査においても、エンゲージメントスコアの下位25%は離職率が高いと報告されている。従業員エンゲージメントの向上は離職率を低下させる効果があることを証明するデータと言える。

その一方、同社が、2017年に世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント調査によると、日本には「熱意あふれる社員」の割合が6%と、米国の32%と比べて圧倒的に低く、調査した139カ国中でも132位と最下位クラスだった。加えて、企業内に諸問題を生む「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員」は70%に達している。

参考:「熱意ある社員」6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査

従業員エンゲージメントの測定

従業員エンゲージメントの研究や調査においては、さまざまな測定が行われる。前出ガートナー社では、以下の5つのカテゴリに基づいて測定を行う。

1.現在の仕事に対する理解度
従業員が現在の地位で業績を上げるために何が必要か、成功するための適切なトレーニング、コーチング、ツール、およびリソースを提供されているか、そして自らの仕事が重要であることの理解度。

2.直属の上司との関係性
従業員が上司と良好な関係を持っているとの意識。上司が自分の仕事と直面している課題を理解し、パフォーマンスを妨げる可能性のある障害を取り除き、将来の成長を期待していると信じているかどうか。

3.組織のリーダーに対する認識
組織のリーダーが有能であり、組織をより良い未来へ向けて動かしていると信じる程度(市場への影響、財務目標の達成、組織の目標の達成など)。

4.キャリア形成と発展の機会
従業員が組織に所属することが、スキルを向上させる機会となり、長期的なキャリアを形成することができ、短期的な「仕事」以上のものになると信じている程度。

5.仕事の条件
雇用または組織の基本的な環境がエンゲージメントに影響を与える程度。たとえば、十分ではない報酬や福利厚生、テクノロジーの欠如、効率的な運用を妨げる職場または組織の構造上の問題など。(これらの要素は本質的には動機付けの要因とは見なされないため、改善してもエンゲージメントを積極的に促進しないことが多いが、欠如しているとエンゲージメント全体を著しく損なう可能性がある)

また、エンゲージメント調査における質問には、以下のものが含まれる。

1)組織の戦略的目標を理解していますか?
2)会社がその目標と目的を達成するために何をすべきか知っていますか?
3)あなたの仕事と、会社の目標・目的の間に明確な関連性が見えますか?
4)チームの一員であることを誇りに思いますか?
5)あなたのチームはあなたに最高の仕事をするよう促していますか?
6)あなたのチームはあなたの仕事を全うするのに役立ちますか?
7)あなたの仕事について正しい決定を下すのに適切な情報量がありますか?
8)組織の構造とプロセスについて十分に理解していますか?
9)仕事で予期しないことが起こったとき、誰に助けを求めるべきか知っていますか?

参考:9 Questions That Should Be in Every Employee Engagement Survey

ちなみに、従業員エンゲージメントを向上させるためのツールやサービスは数多くリリースされている。

例えば日本では、3分で組織の状態を可視化し、エンゲージメントにおける課題の特定と改善策を提案し、組織改善のサイクルを生み出してくれるサービス、「wevox」がよく知られている。

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(画像出典:wevoxウェブサイト

また、2019年9月、米国アクセラレーター「Alchemist Accelerator」のプログラムを修了した従業員向けAIマッチングサービス「LEAD」は、普段交流が少ない従業員同士をコーヒーやランチタイムの機会を通じてマッチングさせ、従業員エンゲージメントの高い企業文化形成をサポートするサービスとして注目される。

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(画像出典:LEADウェブサイト

ミレニアル世代・Z世代の労働観

また、いわゆるミレニアル世代(1981年から1996年の間に生まれた人々)やZ世代(2001年以降生まれの人々)の労働観もこの従業員エンゲージメントに関係していると思われる。2025年には労働人口に占めるミレニアル・ジェネレーションZ世代の割合は、世界全体では75%、日本では50%になると言われている。

この世代はいわゆるデジタルネイティブであり、生まれたときからPCやスマートフォンなどITテクノロジーが身近に存在する世界で生きている。そういった環境もあり、自ら情報を発信し、リアルタイムに体験を共有することに慣れており、お金以上に他人から得る評価や信用に大きな意味があると感じていると言われる。

また、モノに執着するよりよりコト(体験)にお金を使う傾向が強いことに加え、社会問題やソーシャルグッド(地球環境など、社会に対して良い影響を与える活動や製品等のこと)にも敏感でボランティア意識が高いことも指摘されている。そして最もこの世代を象徴するのが、仲間意識が強い傾向にあるということであり、自分と同じ趣味や価値観を持ったコミュニティに属する人は特に大切だと考えている。

他方で、労働観については、終身雇用を前提とした会社での出世やキャリア形成に関心が薄い傾向にあり、フリーランスになるか、あるいは起業するという選択肢を選ぶ人も多い。また、その選択肢には今では複数の職業を持つパラレルワーク(副業・複業)も含まれている。

言い換えると、この世代は終身雇用や組織内の地位への関心は薄く、自身の価値観や嗜好等に応じた転職を厭わない傾向にある、つまり、「会社のための自分」ではなく、「自分のための会社」という意識が根付いている、もしくは根付きつつあると言えるかもしれない。このような労働観の変化は、前述のようにミレニアル・ジェネレーションZ世代が労働人口の大半を占めることが予想されている中、決して看過することはできないだろう。

この世代の労働感を充足するための制度や条件を整えることで従業員エンゲージメントを高め、企業経営に大きな効果をもたらす、そして、この世代の価値観が持つエネルギーを活用してイノベーションを起こすフェーズとも言える。

スタートアップの従業員エンゲージメントは?

では、スタートアップにとっての従業員エンゲージメントとはどういうものだろうか。

従業員エンゲージメントが有能な人材を確保し定着させるという意味では、経営資源の少ない時期にプロダクトやサービスの開発に多くの人材とコストを投入しなければならないスタートアップにとっても生命線であることに変わりはない。

先に従業員エンゲージメントとは「絆」あるいは「結びつき」だと書いたが、スタートアップの創業メンバー(共同ファウンダー)についても同じことが言える。創業メンバー全員が創業時点で事業の目的や理念に強く共感し、価値観を共有しておくことは非常に重要だ。

Startup Genome 社が2012年にまとめたレポートでは、例えばマイクロソフトのビル・ゲイツ氏とポール・アレン氏、アップルのスティーブ・ジョブズ氏とスティーブ・ウォズニアック氏、グーグルのラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏などの事例を上げ、ファウンダー1人のスタートアップの場合、ファウンダー2人のスタートアップと比較すると、スケールするのに平均3.6倍もの時間を要している、と紹介している。

そしてまた、スタートアップではそれぞれの役割が明確なチームを編成し、従業員が各自の担当分野における会社への貢献を通じて、各自の従業員エンゲージメントを高めることが、事業の成長に直結する。

チームという概念についてNETFLIXが公開している資料が、従業員エンゲージメントにもつながるので紹介しておこう。

同社はDVDの郵送レンタルから、映画のストーリミング配信、オリジナル・コンテンツ製作へとビジネスモデルを変化させ、今や、ピーク時にはアメリカ全土のインターネット・トラフィックの3分の1を占めるまでに成長した大企業だ。現在の時価総額は1,500億ドル(約16兆2,600億円)以上、世界190カ国以上で配信事業を展開し、総会員数は1億人を超える。

しかし、同社が1997年にDVDレンタル業からスタートして以降、時代の変遷とともに何度も経営の危機に見舞われ、事業を方向転換しながら存続させてきたのはご承知のとおりだ。そのたびに、多くの従業員を解雇しつつ大胆な組織改造を実行したこともよく知られている。

これは大きな痛みを伴う決断だったが、その結果経営陣は、最高の結果を出せる従業員だけが会社に残っていたということに気づいたという。「経営陣が従業員のためにできる最善のことは、一緒に働く同僚にハイパフォーマーだけを採用することだと学んだ」と、NETFLIX社の人事部門を統括していたパティ・マッコード氏は語っている。

つまり、給与や待遇以上に大切なことは、有能な人物の採用と、明確な目的意識、達成すべき成果を周知徹底することの組み合わせであり、それがパワフルな組織を築く秘訣だと言う。

そしてそのためには、会社は家族ではなく共通の目的を持ったスポーツチーム、それもプロフェッショナルの集団でなければならないと結論づけている。その根底にあるのは、「優れたチームづくりに本気で取り組むことが、経営陣の一番重要な仕事だ」という認識だ。

なお、NETFLIX社の取り組みは、以下にスライド資料として公開されている。このスライドは実に1,500万回、ダウンロードされた。

Netflix Culture:Freedom & Responsibility

高い従業員エンゲージメントは、自らの役割を明確に認識し、高いパフォーマンスを発揮できる人材がいればこそ実現できるものだとすれば、経営者が取り組むべきは、そうしたプロフェッショナル集団を編成することなのかもしれない。そしてそこに「絆」が生まれるのは必然と言えるだろう。

※為替レート:2019年10月20日現在

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