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ドイツのユニコーン企業から学ぶ成功の鍵~スピードとデータ活用で国境を越えてスケールするスタートアップたち

ドイツのユニコーン企業から学ぶ成功の鍵~スピードとデータ活用で国境を越えてスケールするスタートアップたち

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2019/10/23

イギリスに次ぐユニコーン大国ドイツ

スタートアップとして大成し、未上場ながらも評価額が10億ドル
(約1,080億円)に達した所謂ユニコーン企業は、「スタートアップ大国」であるアメリカのみならず、ヨーロッパからも数多く誕生している。オランダの企業情報リサーチ会社Dealroomの資料によると、これまでにヨーロッパから誕生したユニコーン企業は、約160社(2019年現在)にのぼる。

ヨーロッパは欧州連合(EU)の枠組みの下、独自の経済圏を形成しており、その経済規模はアメリカ合衆国と同程度とされている。中でも最大の人口を有し、存在感を発揮しているのがドイツだ。

これまでにヨーロッパから誕生したユニコーン160社のうち、ドイツのユニコーン企業は27社あり、イギリスの75社に次いで2番目に多い。歴史的にドイツからは音楽や哲学の世界でも優れた才能が登場しているが、スタートアップの世界ではどのようなアイデアが生まれ、ユニコーンへと成長していったのだろうか。今回はドイツ発で世界へと羽ばたいたユニコーン企業のうち、特に注目を集めた企業を紹介する。まずは、ユニコーンから見事IPO(株式公開)を果たした2社からだ。

Delivery Hero(オンライン食品配達サービス)

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(画像出典:Delivery Heroウェブサイト

Delivery Heroは、2011年に設立されたベルリン発のオンライン食品配達サービス。2017年に4億6,500万ユーロ(当時レートで約595億円)規模のIPOを行ない、設立からわずか6年でドイツの歴史上でも有数の規模の上場を果たした。この時点での時価総額は47億ユーロ(当時レートで約6,014億円)だったが、2019年5月時点で87億ドル(約9,400億円)に達している。

Delivery Heroは、レストランやファストフード店などの飲食店と、顧客、そして配達員とを結びつける食品宅配のプラットフォームを提供している。アプリを介して、これまで配達を取り扱っていなかった飲食店にも宅配を依頼できるサービスで、近年日本でもサービスが始まったUber Eatsなどと同じく、今ではすっかり社会に浸透している。

だが、Delivery Heroがドイツでオンライン食品配達サービスの事業を開始したのは2011年のこと。Uber Eatsの前身であるUber Freshのサービス開始が2014年であることを考えれば、かなり早い段階でシェアリングビジネスの概念を食品配達事業に適用していたことが分かる。Delivery Heroの成功は、いち早く市場を開拓することでより利益を得られる先行者利益(先発優位)の非常に分かりやすい例だ。

Delivery Heroは、設立した2011年中に複数のベンチャーキャピタルから計400万ユーロ(約4億7,700万円)を調達すると、同年中にオーストラリアとイギリスに進出している。イギリスでは、同様にオンライン食品配達サービスを展開するHungryhouseを買収。その後、2012年に海外での事業規模拡大を目的に計6,500万ユーロ(約77億4,800万円)の資金調達に成功し、スウェーデン、ポーランド、フィンランドで同様の事業を買収している。同年中には韓国と中国にも進出しており、韓国ではオンライン食品配達サービスの分野で国内第2位の規模にまで成長した(第1位は韓国企業のWoowa Brothers)。

その後も各国での事業拡大を進めたDelivery Heroは、2017年6月にIPOを実施。IPOにあたって、同社のCEOニクラス・オストバーグ氏は、「収益性は事業の規模に比例するので、できる限り早く拡大させたい」と語っている。前述の通り、4億6,500万ユーロ(当時レートで約595億円)を調達し、テクノロジー系企業としては過去2年で欧州最大規模のIPOとなった。

Delivery Heroのグローバル規模での成長の要因は、オンライン食品配達サービスのノウハウを確立するやいなや、瞬く間に海外展開を進めていったスピード感にある。同社は現在、40カ国以上でビジネスを展開中で、提携レストラン数は25万店を越えている。ただしDelivery Heroは、買収した他国企業の社名変更は行わない。海外でも一から事業を展開するのではなく、既存の地元企業を買収することで現地でのブランドをそのまま利用し、人手も確保することができるからだ。

既に他の国や地域でスケールしているビジネスモデルであっても、言語や法律といった障壁を乗り越えてローカルに定着させていくには膨大なエネルギーを要する。あくまでスピードを重視して先行者利益を確保し、資金調達に成功すればすぐに事業拡大の費用に充てる――当たり前のようでいて、常に気を緩めず次のステップに進み続けるストイックな姿勢が、ドイツで有数のユニコーンを生み出したと言える。

Hellofresh(食材宅配サービス)

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(画像出典:Hellofresh ウェブサイト

Delivery Heroと同様、ドイツから「食」に関するスタートアップとして登場したユニコーンが、ベルリン発祥のHellofreshだ。Delivery Heroは飲食店の料理を配達するサービスだが、Hellofreshが届けるのはミールキット(食材セット)を定期購入するサブスクリプションだ。

Hellofreshに注文すると、食材だけではなくレシピも送られてくる。いずれも30~40分で調理できるメニューで、新鮮な食材を使って自分で調理するという「体験」を提供しているわけだ。その週に送られてくる食材とレシピは、スマートフォンのアプリから簡単に選ぶことができる。

同社はDelivery Heroと同じく、2011年という早い段階で10人の顧客から食材宅配サービスを開始。その後、ドイツのスタートアップインキュベーター(スタートアップ企業を支援する組織やプログラム)であるRocket Internetの支援を受け、2012年初頭に現在のモデルを確立した。こちらも先行者利益を確保した好例と言える。

同年にアメリカ、イギリス、オーストラリア、オランダに拡大すると、2014年には月間100万食を届ける巨大ビジネスへと成長した。2019年現在、ドイツ、イギリス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、オーストリア、スイス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドで事業を展開し、9月からはスウェーデンでもミールキットの提供を開始した。なお、アメリカでは、同業で2012年に登場したアメリカ発のBlue Apronに追随する形でワインのサブスクリプションサービスも行っている。

2017年11月にIPOを実施し、17億ユーロ(約2,026億円)を調達した。アメリカでの競合であるBlue Apronも同年6月にIPOを実施しているが、Blue Apronは一時株価が半分にまで下落するなど、IPO後は苦戦を強いられている。一方でHellofreshは順調に業績を伸ばし続け、2018年にアメリカ国内トップシェアの座をBlue Apronから奪い取っている。

アメリカ以外に事業を展開していないBlue Apronと異なりグローバルな展開を続けるHellofreshの強みは、世界中から集めた膨大な量のデータだ。2017年時点ですでに130万人を越える顧客のデータをもとに、シーズンごとにどのような食品が好まれるかを分析し食材を揃えている。

顧客からの個々のフィードバックに加え、各国の食文化やイベント(ハロウィンやクリスマスなど)の重要度も加味し、データ分析ツールを利用して統計情報を作成している。こうしてHellofreshは、世界中から得たビッグデータをもとに、顧客が作りたいと思うレシピを提案している。

例えば、他社ではベジタリアン(菜食主義者)用のメニューはオプションで用意されているが、Hellofreshではベジタリアンのために特別のレシピが用意されている。ミールキット市場には150社以上がひしめき合っていると言われるが、その中で顧客の支持を得続けるためには、こうした細やかな顧客対応が必須だ。

自分で調理するという「体験」とビッグデータに裏付けられた商品開発、そしてサブスクリプション。この3つの要素を強みに、ドイツから登場したHellofreshはアメリカで業界トップに上り詰めた。

次に、現時点でユニコーンであり今後IPOが期待されている2社を紹介しよう。

AUTO1 Group(中古自動車取引プラットフォーム)

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(画像出典:AUTO1 Groupウェブサイト

中古自動車取引のプラットフォームを展開するAUTO1 Groupは、ドイツの現役ユニコーンだ。2015年8月にユニコーン入りして以来、順調に資金調達を進めており、2018年1月にはソフトバンク・ビジョン・ファンドから4億6,000万ユーロ(約548億6,000万円)を調達している。

AUTO1 Groupが手がける事業の特徴は、三つの異なるプラットフォームを運営しているという点だ。いずれも中古自動車の売買に関するプラットフォームだが、BtoB、CtoB、BtoCと、それぞれ事業領域が異なる。

AUTO1.comは中古自動車のディーラー用の取引サイトだ。ディーラーは、ポートフォリオの中で不要になった中古自動車を同サイトでオークションにかけることができる。30カ国以上、55,000人以上の登録されたディーラーが、この中古自動車を買い取る。つまり、AUTO1.comは、独立系ディーラーの手元で眠っていた中古自動車=資産を、必要としている別のディーラーへと販売する仲介の役割を果たす。

wirkaufendeinauto.deは、一般客向けの中古自動車買い取りサイトだ。車を売りたいユーザーはオンラインで査定を依頼できる。このビジネスでは、AUTO1が顧客の車を買い取り、買い手が見つかるまで一時保管する。売り手は10日程度で車を売却することが可能で、このスピーディーさに人気が集まった。

上記二つのサービスは2012年に開設されているが、複数回の資金調達を経て2017年に開設されたのがAutoHeroだ。AutoHeroは一般客向けの中古自動車販売サイトで、顧客はディーラーがウェブサイト上に出品している中古自動車を購入することができる。車種や生産年、走行距離、価格帯を絞って検索することができ、買い手と売り手の双方にとって、AutoHeroはまさしく中古車販売のプラットフォームになっている。

AUTO1 Groupの強みは、やはりデータにある。上記三つのウェブサイトから中古自動車の需要と供給のバランスを割り出すことができる。そして市場の需給状況に応じて、それぞれのプラットフォームにおける売買価格が決定される。3つのプラットフォームで得たデータを独自のアルゴリズムで分析し応用するシステムだ。

これまでひとつの市場で個別に動いていた独立系の中古自動車ディーラーと顧客の仲介となり、そこで得たデータを活用して更に効率性とサービスの充実度を高めていく戦略が、IT業界の巨人であるソフトバンクの注目を得たのかもしれない。

N26(オンラインバンキング)

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(画像出典:N26ウェブサイト

AUTO1 Groupと同じ現役ユニコーンで、2019年1月にユニコーン入りを果たしたN26は、スマートフォン専用銀行としてヨーロッパ最大規模に成長したベルリン発のスタートアップだ。2013年に「Number 26」という名前でスタートしたN26は、「ヨーロッパで最初の完全なモバイルバンク」を謳い、現在ヨーロッパ24カ国とアメリカで事業を展開しており約230万人が利用している。

N26のCEOヴァレンティン・シュタルフは、前述のドイツのスタートアップインキュベーターRocket Internetに在籍した経歴を持つ。同社で決済サービスのスタートアップ2社の事業に携わっており、また当時の人脈が、後のN26の資金調達においても生かされている。2019年7月には、時価評価額35億ドル(約3,785億円)で1億7,000万ドル(約184億円)を調達している。これまでの総調達額は6億7,000万ドル(約725億円)に上る。

N26の最大の特徴は、わずか5分で簡単にスマートフォンから銀行口座を開設できることだ。

無料アカウントでも、口座の維持手数料は不要で、口座に最低残高を入れておく必要もない。また、マスターカードのデビットカードが無料で発行される。さらに便利なことに、ひとつの口座の中で貯蓄用、光熱費用、納税用などと個別の用途に応じたSpaceという小口の口座が2個利用できる。ユーロ圏での振込手数料は無料で、ユーロ圏以外でも0.4%~1%程度と格安だ。

その一方、N26では無料アカウント以外に、さらに上位の有料プランとして「You」と「メタル」を用意している。「You」は月額9.9ユーロ(約1,180円)、「メタル」は月額16.9ユーロ(約2,000円)だ。

「You」では、世界中のATMから無料で現金を引き出せる。無料アカウントでは1.7%の手数料がかかる(ユーロ圏では無料)。また、無料アカウントの場合2個までだったSpaceが10個利用できる。

「メタル」には、旅行保険、アプリによる専用のカスタマーサポートの他、WeWorkやHotels.comといった著名企業や、ラッパーのJay-Zが代表を務め、アーティストの権利保障を掲げる音楽配信プラットフォームのTidal、あるいはオンライン言語学習アプリを展開するBabbelなどの新興企業が提供するサービスも受けられる。

また、P2P海外送金サービスのTransferWiseと提携することで、N26ユーザー間では無料で海外送金ができる。2016年にはフリーランスと自営業者向けのビジネス口座「N26 Business」をローンチ。簡単小口投資アプリの「N26 Invest」も提供されており、すべてがスマートフォンで完結する手軽さは、とりわけミレニアル世代(1980~2000年代初頭に生まれた世代)にとっては大きな魅力だ。

オンラインバンクに口座を開き、スマートフォン一台で資産を管理したいという現代的な感覚を持ったミレニアル世代にターゲットを絞り、その顧客層にとって身近な企業とパートナーシップを締結することでそのニーズとウォンツに対応した点は、まさに新世代のバンキングと言える。今後は融資や保険商品も手がけることになるだろう。

2018年には、そのN26に中国のテンセントが出資している。2019年にはテンセントの追加出資と複数のベンチャーキャピタルからの出資を受け、計3億ドル(約325億円)の資金調達を行った。そして、同年7月に満を持してアメリカに進出、同国でのサービスを開始した。

なお、N26には最低入金額の規定が存在しないが、そのアメリカでは銀行口座の開設や維持のために一定額を口座に預けておく必要がある。そのため、キャッシュレス社会からの貧困層の排除が社会問題になっている(アメリカでは銀行口座を開設すれば自動的にデビットカードが発行される)が、N26のアメリカ進出はフィンテックの分野からそうしたアメリカ社会を変える可能性すらありそうだ。

N26は顧客の口座の出入金情報を分析し、給料日の二日前に貸付が受けられるサービスも展開している他、アプリには支払い履歴を利用した家計簿機能も備わっている。世界中の顧客の「食」に関するデータを分析し活用するHellofresh同様、N26は世界中の個人のお金の動きに関するデータを入手し、金融サービスに更なる進歩をもたらすかもしれない。

N26は今後、ブラジルへの進出も控えている。大陸を越えてN26の利用が広がれば、世界中の人々がスマートフォンアプリに同じ銀行の口座を持つことになる。「デジタル次世代」とも呼ばれるミレニアル世代にとって、「銀行」という概念そのものが、これまでのものとは違ったものになる可能性もある。
 

ドイツのユニコーンから学ぶスケール感

このようにドイツから登場したスタートアップは、堂々と世界の競合と渡り合っている。彼らを支援し続けるRocket Internetの存在や、EUという巨大な経済圏も有意に働いているが、迅速な展開スピードとデータ活用で攻め続ける彼らの戦略や、国境を越えて成長するというスタートアップならではのスケール感は、日本のスタートアップも大いに参考にしたい。

*為替レート:特記したもの以外は2019/9/17時点

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