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日本のユニコーン、プリファード・ネットワークスが交通・製造・医療の巨人たちと協業できるその技術力とは

日本のユニコーン、プリファード・ネットワークスが交通・製造・医療の巨人たちと協業できるその技術力とは

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2019/09/27

プリファード・ネットワークスとはどのような企業なのか

2019年現在、日本で唯一のユニコーン企業として知られているのが、株式会社プリファード・ネットワークスだ。ユニコーン企業とは、企業価値の時価評価額が10億ドル(約1,065億円)以上の非上場企業のことを言う。非常に希少で滅多に登場しないことから、伝説上の生き物であるユニコーンの名が冠されている。

プリファード・ネットワークスは、ディープラーニングをはじめとする機械学習機能の研究開発に取り組むスタートアップだ。2014年3月に、後述するPreferred Infrastructure (以下、PFI) からスピンアウト(事業の一部を一企業として独立させること)する形で創業された。

プリファード・ネットワークスが研究開発に力を入れるのは、AIとIoTがプロダクトの中心的な役割を果たす時代に必須のシステムとなる「エッジヘビーコンピューティング」だ。リソースをクラウドに集中させるのではなく、現場のデバイスやロボットに分散させてデータの処理・管理を行うネットワークコンピューティングの方法のひとつで、これまでのクラウドコンピューティングに代わるシステムとして近年注目を集めている。同社は、IoTとディープラーニングを掛け合わせるこの技術力を武器に快進撃を続けているのだ。

スタートアップ企業を調査・分析するCB Insightsが2019年1月に公開した「Global Unicorn Club」では、プリファード・ネットワークスは日本から唯一のユニコーン企業としてリスト入りを果たした。CB Insightsの調査では、同社がユニコーン入りしたのは2018年5月。全世界で見てもユニコーン企業は310社のみで、プリファード・ネットワークスには20億ドル(約2,120億円)の評価額がついている。

CB Insights - The Global Unicorn Club

また、日本経済新聞社が日本国内の有望スタートアップをまとめ、2018年12月に公開した「NEXTユニコーン調査」では、2,402億円の評価額がつけられている。2位にランクインしたエネルギー業界向け基幹システムの開発を手がけるパネイルの評価額は801億円。プリファード・ネットワークスは実に約3倍の差をつけており、日本最大のスタートアップ企業としてトップの座にあることになる。

日経新聞NEXTユニコーン調査

2019年5月には第5回日本ベンチャー大賞(内閣総理大臣賞)を受賞。2017年に発表された第3回日本ベンチャー大賞では、後述するプリファード・ネットワークスとファナックの事業連携が、新興企業と大企業の連携を表彰するベンチャー企業・大企業等連携賞(経済産業大臣賞)に選ばれている。

イノベーションが起きる仕組み

PFI時代からの高い技術力

スタートアップであるプリファード・ネットワークスが、ここまで評価されるのはなぜだろうか。その理由は、同社の技術力にある。

プリファード・ネットワークスのスタートは、その前身ともいえるPFIが設立された 2006年にまで遡る。PFIは、当時東京大学大学院に在学していた西川徹氏(後にプリファード・ネットワークス代表取締役社長)や岡野原大輔氏ら、東京大学、京都大学の6人の学生によって設立された。同社では、非テキストデータ(画像や位置情報など)の検索機能やレコメンデーション機能を搭載した統合情報検索プラットフォームの「Sedue」を2010年にリリースするなど、情報検索、自然言語処理、機械学習、分散システムを用いたソフトウェアの開発を行ってきた。

2014年、PFIのSedueに関する事業はレトリバ社に事業譲渡され、西川氏らはディープラーニングを活用したソフトウェアの研究開発を推進する目的で新たにプリファード・ネットワークスを立ち上げる。今後ディープラーニングが様々な分野で活用されることを見越した転換だったといえる。

ポイントは、プリファード・ネットワークスはPFI時代から優れた技術者集団だと認知されていたという点である。PFIの立ち上げメンバーは全員が技術者であり、その中には2006年のACM国際大学対抗プログラミングコンテストに出場したメンバーも含まれている。社員数が100名を超えた現在でも、そのほとんどが技術者や研究者だ。

技術力の源泉----その理念とは

では、その高い技術力の源泉はどこにあるのだろうか。そもそもPFI時代には、ベンチャーキャピタルの出資を受け入れず、開発に注力しており、技術者気質が読み取れる。プリファード・ネットワークスにスピンアウトした後も、「他社からの受託案件を一切請けず、自社開発に注力」するという方針を崩さなかった。下請けではなく、共同開発という形で他社と手を結び、高いレベルで研究開発に取り組める案件だけを受けてきた。既存の技術の後追いはしない、「次の技術の追求」という姿勢は、プリファード・ネットワークスという企業の根幹に根付いているのだ。

また、短期の契約を結ばないことも特徴だ。スタートアップは資金に余裕がないことが多く、短い期間で利益を生み出せる短期の研究開発を受注しがちだが、プリファード・ネットワークスは専門性の高い技術開発を目指すため、長期のパートナーシップを結ぶことを前提としている。そしてこの長期パートナーシップを機能させるために、企業側が開発費を負担する。だがこれも、自社の高い技術力に自信があるからこそ選べる選択肢だと言える。

そうした姿勢を持つ企業に集う人材とは、どのような人々なのか。プリファード・ネットワークスは、非常に高い採用条件を設定していることでも知られている。リサーチャーの応募条件は、国際学会に継続して年2本以上論文を発表していること、コンピュータサイエンスの分野に限らず様々な分野の知見を持っていること、自身の研究分野において世界でトップレベルといえるものがあること、技術を実用化する高いモチベーションを持続できること、といったハードルの高い条件が並ぶ。

つまり、プリファード・ネットワークスには、この条件をクリアした優れた専門家の集団の中で働きたい/働けるという確信を持った人材だけが集まる。社長の西川氏や副社長の岡野原氏らも元技術者であり、「技術者の会社」という信頼もある。更に、「PFN Values」と呼ばれる4つのバリュー----「Motivation-Driven 熱意を元に」、「Learn or Die 死ぬ気で学べ」、「Proud, but Humble 誇りを持って、しかし謙虚に」、「Boldly do what no one has done before 誰もしたことがないことを大胆に為せ」----が明確に掲げられており、このバリューに共感・体現できることも採用条件だ。技術のレベルと仕事・研究に対する姿勢が明示されていることで、同じレベルの技術力と志を持った人材が集まるのだ。

また、採用条件として、あらゆる技術領域に精通していることが求められていることもポイントだ。自身の専門性を活かすだけでなく、互いにアイデアを共有し専門分野をオーバーラップさせ、新たなアイデアを獲得していくことで、イノベーションが生まれる。そうしてプリファード・ネットワークスはこの国で最先端のIT企業であると同時に、専門性の高い技術者集団であり続けている。

エンジニア目線

技術者と研究者の集団であるがゆえ、プリファード・ネットワークスの動きは常に「エンジニア目線」だ。プレゼンテーションファイルの共有サイト「SlideShare.net」には、同社がワークショップや講演会で使用したスライドが多数公開されている。また、オープンソースのディープラーニング用ソフトウェアライブラリ「Chainer」やディープラーニングの学習サイトを公開するなど、まったくと言っていいほど出し惜しみをしない。

そこには、エンジニア特有のカルチャーが存在している。オープンソースのコミュニティで積極的にウェブサイトの開発・維持などのボランティアを行うことは、エンジニアにとって、自身の技術を磨き、コミュニティに貢献し、実績を積み重ねることでもある。また、多くの情報が公開されているテクノロジーは広くエンジニアから親しまれ、技術がより発展しやすい傾向にある。こうしたエンジニア目線の発想と姿勢があるからこそ、採用の高いハードルを乗り越えて優れた技術者が集まる、という好循環が生み出されているのだ。

プリファード・ネットワークスが生み出した技術

日本のAI技術を底上げ

この結果、プリファード・ネットワークスが生み出した技術は、今後数年間で大きく世界を変える可能性を持っている。同社が注力する「エッジヘビーコンピューティング」とは、ディープラーニングとIoTを掛け合わせたシステムだ。クラウドではなく「エッジ」と呼ばれる現場のデバイスやロボットで計算処理を行い、情報を取り扱うことで、より迅速に高度な作業を行うことができる。

また、前述のディープラーニング用ソフトウェアライブラリChainerは、顔認識や音声認識といったディープラーニングを必要とするシステムに利用できる。「柔軟性」、「直感的」、「高機能」がその特徴として掲げられており、Chainerを利用すれば、ディープラーニング用のニューラルネットワーク(人間の脳の神経細胞を模した情報処理モデル。ディープラーニングや分散処理に活用される)の構造や学習方法をシンプルなコードで記述し、モデルを構築することができる。Chainerによって、より直感的な記述でニューラル・ネットワークを構成することが可能となり、これまでよりも簡単にディープラーニングのシステムを構築することが可能になった。AI開発に取り組む研究者にとっては大きな進歩だ。日本のAI技術を底上げするほどの技術力が、プリファード・ネットワークスにはあるのだ。

では、プリファード・ネットワークスは具体的にどのようなシステムを提供しているのか。プリファード・ネットワークスが重点事業領域に掲げる三つの共同事業を見てみよう。

トヨタ自動車と共に交通システムに改革

一つ目の重点事業は、「交通システム」に関する取り組みだ。自動運転とコネクテッドカーの研究開発を進めており、2014年からトヨタ自動車との共同研究を進めている。コネクテッドカーとは、ICT(情報通信技術)を搭載したクルマのことで、周囲の交通状況や車両の状態などのデータを収集することができる。事故時に自動的に救急車を呼ぶ、周囲の交通情報を活用し自動運転を実現するなど、さまざまな活用法が考えられている。

2016年には電子機器の見本市であるコンシューマー・エレクトロニクス・ショーにて、トヨタとプリファード・ネットワークスが共同で「ぶつからないクルマ」のデモを公開している。複数のクルマがそれぞれ他のクルマの動きを学習し、ぶつからないための動きを見つけ出していく。更に、これまでもクルマが故障する直前に検知、通知がされる機能はあったが、ディープラーニングを行うクルマでは日常の学習記録を参照し、わずかな異常でも検知することができる。これにより、クルマの故障を事前に予測することが可能になり、プリファード・ネットワークスによると、故障の約40日前には検知及び通知を行うことができるという。

また、クルマ同士がつながり、相互に通信し合うことで、個別のクルマが経験したことのない状況や、行ったことのない場所でも対応が可能になる。周囲の状況やドライバーの意図など、クルマ同士の情報交換が成り立つようになるのだ。交通というリアルタイムの情報処理が生命の安全に関わる分野では、情報を毎回クラウドに送って処理していたのでは間に合わない。高頻度、低レイテンシ(短時間で処理過程を完了させ、遅れが生じないこと)のデータ分析と共有を可能にするのが、「エッジヘビーコンピューティング」なのだ。

プリファード・ネットワークスは、交通の分野で「自動運転とそれがもたらす人流と物流の大きな変革」を掲げている。今、クルマの知能化を実現するキーパーソンがプリファード・ネットワークスなのだ。

ファナックと推進するファクトリー・オートメーション

二つ目の重点事業が、製造業だ。この分野でプリファード・ネットワークスが手を結ぶのは、ファクトリー・オートメーション(工場の自動化)を推進するロボット、ロボマシンのメーカーであるファナックである。「人流と物流の大きな変革」を掲げた交通の分野と同様に、製造業においても、同社は「知能化ロボットによる製造の大きな変革」をミッションに掲げる。

これまで、工場のロボットは人間からインプットされた指示通りの動きをこなすことはできていたが、見えないモノの動きの予測や形が一定でないもの(液体や生鮮品など)の検出には課題があった。ディープラーニングとIoTの組み合わせが製造業に適用できれば、経験で得たデータから学習した物理モデルを他のロボットと共有、協働することができる。プリファード・ネットワークスは製造業において「止まらない工場」の実現を目指しており、ファナックの技術と合わせてファクトリー・オートメーションを進める。

事業連携に至った背景について、ファナックは第3回日本ベンチャー大賞日本経済産業大臣賞の受賞時に、以下のように語っている。

「最先端のAI技術と機械の制御技術の融合で高いシナジー効果が得られる」と確信し、協業を即決。世界のモノづくりの革新を目指してともに邁進することになりました。

トヨタやファナックはモノづくりに関しては歴史と実績があり、そのプロダクトや製造過程で得られるデータの量も膨大なものであった。既にハード面で強みを持った大企業と、ソフト面で応用が効くがまだ広く一般化されていないIoTとディープラーニングの技術を持つプリファード・ネットワークス、その両者の必要とする技術が合致した形だ。

国立がん研究センター、DeNAと協業するバイオヘルスケア

そして、三つ目の重点事業が、「バイオヘルスケア」である。「生体センサ、ゲノムデータ、診療データによる診察、診断の個人化、高度化」、「病気にならない、治せなかった病気を治す」をミッションに掲げるこの事業では、国立がん研究センターおよびDeNAと協業している。国立がん研究センターは、がんに抗するための研究を行う日本のナショナルセンターだが、なぜディープラーニングを手がけるプリファード・ネットワークスが同研究センターと協業を行っているのだろうか。

同社は2016年にDeNAと共同でPFDeNAを設立。ディープラーニングを活用し、少量の血液からがん細胞の有無を判定するシステムの開発を進めている。がん発生時に体内で発生する「マイクロRNA」の計測データと臨床情報をもとにプリファード・ネットワークスがディープラーニングを用いた解析を行い、乳がんや肺がんなど、14種類のがんの発生を判定するアルゴリズムの開発を進める。

そしてこの工程は、国立がん研究センター、PFDeNA、プリファード・ネットワークスの三者によって分業で行われる。検体の採取、臨床情報の管理は国立がん研究センターが行い、検体の解析とRNAのデータ化をPFDeNAが担当する。そして、プリファード・ネットワークスはRNAデータと臨床情報のデータを、ディープラーニングを用いて評価・解析していくのだ。

国の機関である国立がん研究センター、ヘルスケアの分野で経験値を持つDeNA、そしてディープラーニングに特化した技術を持つプリファード・ネットワークスの三者それぞれが最大限にその役割を発揮できる形で協業が行われている。

進む資金調達

あらゆる分野から出資

ディープラーニングとIoTを掛け合わせた国内トップクラスの技術力を持つプリファード・ネットワークスは、次々と資金調達を成功させている。設立されたばかりの2014年10月には、NTTが「IoT時代に向けた次世代ビッグデータ技術の確立」を目指して、プリファード・ネットワークスと資本・業務提携を結んだ。NTTは約2億円を出資し、2017年9月にはNTTコミュニケーションズの高速演算処理プラットフォーム上で、プリファード・ネットワークスが日本国内最大級のプライベート・スーパーコンピュータを稼働させている。これによりNTTは日本最大級のAI ・スーパーコンピュータインフラを提供する企業となっている。

2015年12月には、共同研究を進めているトヨタ自動車が関係強化を目的に約10億円を出資。更に2017年8月には、更なる関係強化と両社で進めている自動運転技術の研究開発を加速させることを狙いとして、約105億円を追加出資している。2014年の共同研究開発開始以来、両社が順調に信頼関係と成果を積み重ねていることがうかがえる。

2017年12月には、博報堂DYホールディングス、日立製作所、みずほ銀行、三井物産、ファナックが合計約20億円の出資を発表した。博報堂DYグループは、スポーツテクノロジーの研究開発を行う「Sports Technology Lab」を設立。プリファード・ネットワークスのディープラーニング技術を活用したスポーツのデータ化、スポーツアナリティクス領域でのプロダクト開発を進める。日立製作所とファナックは、2018年1月にプリファード・ネットワークスを含む三社での合弁会社「インテリジェント・エッジ・システム」の設立を発表。工作機械や産業ロボットにIoTとディープラーニングを活用するシステムの開発を行う。三井物産は2018年11月に米国でプリファード・ネットワークスとの合弁会社「プリファード・メディシン」を設立。ディープラーニング技術を活用した医療関連の新技術の実用化を目指す。

2018年8月には、中外製薬と東京エレクトロンから計9億円の資金調達を行い、中外製薬とは創薬の分野での、東京エレクトロンとは半導体製造の分野でのディープラーニング技術の活用を進めている。このように、プリファード・ネットワークスが資金調達を行うパートナーは、同社が持つ技術を具体的に活用できる企業ばかりだ。そして、その分野の幅広さは、同社が根幹の技術を押さえているという事実と、その技術力の高さを証明していると言える。

今後の展開

プリファード・ネットワークスが公開している「スタートアップとしての知財戦略」と題した資料では、その戦略として「実応用がまだ遠い領域の基礎研究に専念する」ことを表明している。次の時代の技術的基盤を作り出すことで確固たる地位を築き、それを応用することで各業界のトップ組織との協業を実現している。同社は今後、家事を代替するパーソナルロボットの開発や、スポーツの分野など、ディープラーニングの応用領域を更に拡大する計画を進めている。既存の研究の後追いではなく、自社にしかできない高い技術力を持つことで、真に社会に変革をもたらすイノベーションを生み出すことに挑戦している。

*為替レートは2019/8/19時点

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