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SoFiはスタートアップにとって教材の宝庫~いかにして教育ローンの悲劇をチャンスに変えたか

SoFiはスタートアップにとって教材の宝庫~いかにして教育ローンの悲劇をチャンスに変えたか

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2019/09/20

怒涛の資金調達を進めるSoFi

2019年5月、ソーシャルレンディングを手がけるフィンテック系スタートアップのSoFi (Social Finance, Inc.) は、カタール投資庁から5億ドル(約534億円)の資金を調達したと発表した。これで、2011年に設立されたSoFiの資金調達額は総額で25億ドル(約2,650億円)にのぼる。

SoFiは、未上場のまま評価額が10億ドルを超えるユニコーン企業の一つだ。2018年11月には、スタートアップ企業の動向を調査・分析するCBインサイツが発表した「フィンテック250」に選出されている。「フィンテック250」には、健全性や成長の余地を評価されたフィンテック分野のスタートアップ企業が名を連ねる。CBインサイツによると、2018年11月の時点でフィンテック・ユニコーンは世界中に30社。この中でも、SoFiは個人向け融資を行うスタートアップとしてはトップの調達額を記録し、圧倒的な強さを見せている。

なぜ、ソーシャルレンディングを手がけるスタートアップにこれほどまでの資金が集まっているのだろうか。

ソーシャルレンディングとは

そもそもソーシャルレンディングとは、手元に資金があり融資を行いたい個人や企業と、プランと準備があり資金を必要としている個人や企業をマッチングするサービスのことだ。ソーシャルレンディングを行う事業者は、貸し手から資金を集め、借り手に貸し出す、そのマッチングのプラットフォームになる。借り手は利息を加えて貸し手に返済し、仲介したソーシャルレンディング事業者は、その利息から数パーセントを報酬として受け取る。借り手・貸し手・プラットフォームの三者にとって有益な事業だ。

不特定多数の融資者から資金を募るクラウドファンディングと合わせて、ソーシャルレンディングは新時代の資金調達方法としても注目を集めている。

ソーシャルレンディングは普及するのか~お金の貸し借りのこれまでとこれから~

深刻な事態に陥った教育ローンに着目

このソーシャルレンディングサービスの分野から登場したスタートアップとして、業界のトップをひた走るのがSoFiだ。SoFiはソーシャルレンディング事業を教育ローンにフォーカスすることで、大きく成長を遂げた。SoFiが教育ローンの分野でソーシャルレンディングを成功させた理由を見ていこう。

そもそも米国では、拡張の一途をたどる教育ローンが社会問題となっていた。学生ローンの債務整理を行うStudent Loan Heroによると、米国内における教育ローンの債務総額は1兆5,000億ドル(約159兆円)超にものぼり、学費は高騰の一途をたどっている。大統領選の争点にもなるほど、アメリカでは教育ローンを取り巻く環境が深刻な状況に陥っていたのだ。

顧客をHENRYsに絞り込む

そのような中、スタートアップであるSoFiは、誰もやりたがらない、リスクが高いと思われる分野に、斬新なアイデアと明確なプランを携えて挑んだ。

まず、SoFiは、融資を受ける側、つまり借り手の学生を、高学歴で将来的に高い収入を得ることが期待できるHENRYs(High Earners, Not Rich Yet)に絞り込んだ。アメリカ市民が平等に受けられる連邦政府の教育ローンと明確に差異化を図り、返済能力の高い借り手を顧客としてターゲットに据えたのだ。これにより、リターンを得られる可能性が高い投資市場を生み出し、貸し手が集まりやすい状況を作り出した。

だが、SoFiの工夫はそれだけではない。資金が集まったとしても、借り手にとってもSoFiを利用する魅力がなければ、既存の教育ローンを利用するだけだ。そこでSoFiは名門大学のOBから融資資金の提供を受けた。

愛校精神の強いアメリカでは、大学卒業後に母校への恩返しとして寄付をするのは当然の行為であり、OB同士の繋がりも強い。SoFiはそんなカルチャーを利用し、大学OBである投資家から低金利での融資資金の提供を取り付けた。

繋がりがない相手に融資ができる、見知らぬ相手から融資を受けられるというのがソーシャルレンディングの本来の魅力だが、それでは借り手と貸し手の繋がりがどうしても弱いものになってしまう。

SoFiは教育ローンの市場の中でもターゲットを名門大学に絞り込み、繋がりが弱くなりすぎないスポットを見つけ出した。「見知らぬ他人だが同門である」という絶妙な繋がりによって、低金利での融資実現という金融事業における難関をクリアしたのだ。そうすることで、貸し手には返済の確実性を、借り手には低金利での融資を提供する、理想のマッチングを実現した。

マーケットの拡大と起業家支援

更にSoFiは、AIによるビッグデータ解析に基づいた独自のアルゴリズムを開発。借り手の学歴、職歴、キャッシュフロー、公共料金の支払い履歴などを基に、貸し手と借り手をマッチングするだけでなく、リファイナンス(ローンの借り換え)も行っている。既に大学を卒業した顧客でも、現在抱えている教育ローンをSoFiの融資を利用したローンに切り替えることができるのだ。

またSoFiは、起業家向けプログラムも用意した。アーリーステージ(起業したての段階)にあり、マネタイズができていない状況の若年起業家には返済の猶予期間を設けている。それだけではない。起業家の成功をサポートする様々な取り組みも実践している。

紙パックのコーヒーをオフィスへ定期配達する事業を手がけるWandering Bear Coffeeは、SoFiの起業家向けプログラムの出身だ。SoFiがWandering Bear Coffeeの商品を見込み顧客に送り、結果として2,500名の新規契約をWandering Bear Coffeeにもたらした。SoFiはこの成果をSNSなど各メディアでシェアし、更に広報を進めていった。

起業家を助けながら、自分たちのローン事業に価値があることを発信し、貸し手の側からしても自分が融資した事業が成功して資金が回収できるという、まさに一石三鳥の仕組みが構築されている。「顧客の成功が事業の成功」という事業の基本をおさえ、関わる関係者全員が同じ方向を向いて行動できるシステムを作り出したのだ。

人の繋がりを重視

フィンテック新興企業のイメージとは異なる“ウェット”な手法について、共同創設者の一人で初代CEOを務めていたマイク・ギャニー氏は、IT・スタートアップメディアのTechCrunchが主催するテック企業を集めたイベント 「Disrupt NY 2017」に登壇し、こう話している。

「オンラインですべてを解決できればいいのですが、結果的には人々は交流を求めます。毎日電話で4,000件の問い合わせを受けるんです。これを聞いたときは驚いたのですが、人々はコストが低いサービスや、ボットが対応する無料のサービスを好むものの、やはり誰かに直接話したいという時があるのです」

テクノロジーを駆使しながらも、人間的な繋がりを過小評価しない姿勢がSoFiの特徴なのだ。

その他にも、起業家に対してはSoFiのコネクションから投資家を紹介し、ソーシャルメディアの運用法についてトレーニングを施すなど、彼らが成功に近づくための支援を惜しまない。SoFiの共同創業者の一人で、2017年まで同社でバイスプレジデントを務めていたダン・マクリン氏自身も、Wandering Bear Coffeeの商品が届いた時には、それを家族とシェアしたという。ダン・マクリン氏は、コロンビア・スタートアップラボでの講演で以下のように話している。

「レンディング業者は、“私たちのローン事業には非常に価値があります”と繰り返し発信しますが、それは徐々に退屈な主張になっていきます。実際に関わった人々とストーリーを提示することで、より人間的な事業になるのです」

このSoFiの起業家向けプログラムに参加するための条件は、創業者のうち、最低一人が教育ローンを利用していることだ。そのローンをSoFiでリファイナンスすることで、繋がりを作り出すのだ。

これまで多くの学生が利用していた教育ローンは、大学が窓口となっていた。大学職員を通して説明を受け、手続きを行うが、卒業後は大学に対してローンの返済を行うわけではない。貸す方、借りる方、仲介を担う大学の間において、関係性が希薄なまま事務的に貸し借りが行われ、お互いの顔が見えないため各人にとってインセンティブが働きづらいという課題があった。

マイク・ギャグニー氏は、立ち上げ当初にスタンフォード大学OBに融資資金の提供を呼びかけた際、以下のように綴っている。

「社会的な繋がりが強ければ強いほど、債務不履行は減り、卒業生たちが高いリターンを得られると信じています」

スタートアップの鉄則を実行

“ローン(負債)”を通して積極的に繋がりを生み出すというビジネスモデルは、一見しがらみを増やすようにも思える。だが、顧客を返済能力や意欲の高い若者に絞り込むことで、その“繋がり”をポジティブなものに変え、事業として成立させている点は見逃せない。誰も手を出したがらない事業に逆転の発想で挑むことで成功を収めた、非常に分かりやすい例だと言える。

現在では、SoFiの提供するソーシャルレンディングサービスは住宅ローンや個人ローンにも拡大している。上記の仕組みを利用することで、返済能力の高い個人を見つけ出し、融資のマッチングを行う事業へと発展を遂げたのだ。Uberが配車サービスに利用したマッチングの仕組みをフードデリバリーに応用し、Uber Eatsを立ち上げた流れと似ている。

SoFiは、「解決すべき問題が存在しているところに進出する」というスタートアップの鉄則を忠実に実行した。その上で、斬新なアイデアで的確な市場を捉え、そこでの成功をおさめたのだ。

SoFi誕生ヒストリー

そもそも、SoFiを立ち上げたのは、スタンフォード大学経営大学院(Stanford Graduate School of Business)の学生4人だった。共同創業者であるマイク・ギャグニー氏、ダン・マクリン氏、ジェームス・フィニガン氏、イアン・ブレイディ氏の4人は、将来的に高い返済能力が見込まれるHENRYsであった。彼ら自身が、後にSoFiのメイン顧客となる層の当事者だったのだ。

Disrupt NY 2017に登壇したマイク・ギャニー氏は、SoFiを立ち上げた経緯について、以下のように語っている。

「私たちがスタンフォードにいた頃、スタンフォード大学院を出た人間は35年のローンを組んでも誰一人として債務不履行に陥っていないということを教えられ、非常に驚きました。それにもかかわらず、6.8%~7.9%の利息を支払っていたのですから。そのレートはリスク(の低さ)に見合ったものとは思えませんでした。明確にそこにチャンスがあったので、より優れたバリュー・プロポジション(サービスや製品を通して顧客に提供する価値)を提供したのです」

総額25億ドルを集めた資金調達の経緯

4人は、手始めに40人のスタンフォード大学OBから200万ドル(約2億1,200万円)の資金を集め、100人の大学院生に約2万ドル(約212万円)ずつを貸与した。次に、ソーシャルレンディング事業の対象をスタンフォード大学の学生とOBに加えて、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ノースウェスタン大学、ペンシルバニア大学に拡大、2012年には数十校にまで拡大を果たした。

2012年、SoFiはシリーズB(ビジネスモデルの検証を終え、経営が安定した段階で行う資金調達のラウンド)でベースライン・ベンチャーズなどから7,720万ドル(約81億8,320万円)を調達した。投資家の中にはウェルズ・ファーゴ出身の著名投資家ロン・スーバー氏も含まれていた。スーバー氏は16社のフィンテック企業に出資を行っているが、彼はSoFiが創業間もない段階から期待を寄せていたのだ。

2013年にはSoFiの融資規模は100校以上、融資先の顧客2,500人、融資額は計2億ドル(約212億円)にまで拡大を遂げた。同年10月には、事業を通して積み上げた資金調達額が5億ドル(約530億円)を突破したことを発表。翌月、米モルガン・スタンレーと英バークレイズと提携を結び、教育ローン債権を証券化し、更なる資金調達を果たしている。

2014年には、シリーズC(通常、成長段階を終えた時期に更に事業を拡大する目的、または株式公開を見据えて行う資金調達のラウンド)で8,000万ドル(約84億8,000万円)の資金を調達。この資金は教育ローンから不動産ローン、個人ローンへと事業対象を拡大する為に利用された。2015年には教育ローン、不動産ローン、個人ローンを含む融資の合計額が20億ドル(約2,120億円)を突破した。同年2月にシリーズD(シリーズC以降も株式を公開しなかった場合に行う資金調達のラウンド)で2億ドル(約212億円)を調達すると、9月にはソフトバンク主導で10億ドル(約1,060億円)の資金調達を達成。この時、当時CEOのマイク・キャグニー氏は「全米で最も信頼される融資仲介サービス業者を目指す」とコメントしている。同月には顧客への融資額が40億ドル(約4,240億円)を突破したと発表。2016年10月には17万5,000人へ120億ドル(約1兆2,720億円)の融資を行ったとの発表もなされている。2017年にはシリーズF(シリーズD同様、株式非公開のまま継続する資金調達のラウンド)で5億ドル(約530億円)を調達、アジアとヨーロッパへの事業拡大を進めた。

SoFiの次なる一手は

2018年には共同創設者でCEOのマイク・キャグニー氏がセクシャルハラスメント問題で辞任し、新たにTwitter社でCOOを務めてきたアンソニー・ノト氏がCEOに就任した。また、ゴールドマン・サックスに14年間在籍していたミシェル・ギル氏がCFOに就任した。

新CEOに就任したアンソニー・ノト氏もまた、ゴールドマン・サックスの出身だ。同社のコミュニケーション、メディア、エンターテイメント部門のリサーチチームを率いた他、プロアメフトリーグのNFLではCFOを約8年間務めた。ミシェル・ギル氏は以前、ゴールドマン・サックスでモーゲージ証券部門のヘッドを務めており、リーマンショック後には自動車ローン、教育ローン、個人向け無担保ローン事業の成長に寄与してきた。事業を拡大し、巨大フィンテック・ユニコーンとなったSoFiのリーダーとして、申し分のない人選だと言えるだろう。

2017年2月には銀行アプリ会社のZenbanxを買収。Zenbanxは国際送金などの銀行サービスを提供している他、SoFiは米国で銀行業の免許取得を目指して申請を行っており、将来的に直接銀行サービスに乗り出す可能性もある。2019年2月には大手暗号通貨取引所のコインベースと提携し、暗号通貨の交換事業に乗り出すことも発表した。今後資産を形成する見込みが高い若年層をターゲットとしたSoFiらしい動きである。

冒頭でも触れた通り、2019年5月にSoFiはカタール投資庁から5億ドル(約534億円)を調達している。今回の資金調達は、アンソニー・ノト氏のCEO就任後、初の資金調達となった。新体制になっても、SoFiが事業として高く評価されていることの証左であろう。

なお、SoFiを米国最大の教育ローン事業に育て上げた共同創業者のマイク・キャグニー氏は、同社のCEO辞任後、ブロックチェーンを利用した住宅担保ローン事業を立ち上げている。ブロックチェーンを利用してローン審査を自動化、審査にかかる時間を数分間に短縮するというものだが、フィンテックの領域にはまだまだ開拓の余地があるようだ。

スタートアップがSoFiから学べること

今では巨大フィンテック・ユニコーンに成長したSoFiだが、元はと言えば4人の大学院生が立ち上げたプロジェクトだ。当事者として感じた不満や課題を解決するためのサービスを作り出し、社会事業とも呼べる規模にまで拡大を遂げた。SoFiの場合は教育ローンをターゲットに選んだが、全く新しい領域を開拓するのではなく、既存の業界で、事業者も顧客も現状を漫然と受け入れているところにチャンスがあったのだ。

SoFiは、一方で政府が提供する教育ローンシステムの重要性も理解していた。初代CEOのマイク・ギャグニー氏は立ち上げ当初、ニューヨークタイムズの取材に、政府の教育ローンは債権放棄など、SoFiでは実現できないシステムをカバーしていると評価している。逆に捉えれば、SoFiは政府による既存の教育ローンでカバーできなかった部分を、民間で、そしてフィンテック事業として実現したと言える。

SoFiは、アメリカが抱える教育ローンの課題にビジネスチャンスを見出した。ニーズを見出す洞察力、それを解決するアイデア、顧客の成功を第一に考える発想、そして実行力。スタートアップに必要な条件をすべて揃えて事業を成功に導いたSoFiから学ぶべきことは多い。

*為替レートは2019/8/4時点

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