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生体認証はここまで来ている~AIの進化が劇的に変える本人認証の新しい技術

生体認証はここまで来ている~AIの進化が劇的に変える本人認証の新しい技術

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2019/09/09

進化してきた認証技術

あらゆる領域でIT化、オンライン化、自動化が進む現代。本人認証の技術はこれまで以上に重要な開発テーマになっている。本人認証はこれまで署名やパスワードによるものが中心だった。古くは割符や合言葉、現代では書類に押す印鑑や銀行ATMで入力する暗証番号も、認証の一例である。認証は、割符のように人と人の間で認識し照合するものから、パスワードのように人間が入力したものを機械が識別するものへと進化してきた。

認証を更に大きく進歩させたのが、生体認証である。指紋認証や虹彩認証といったバイオメトリクスによる認証の登場は、もはや人間が識別できる範囲を超え、認証を新たな次元へと引き上げた。そして近年、ここに新たな潮流が加わろうとしている。本人認証における複雑なセキュリティの課題を解決へと導く「行動的生体認証」と呼ばれる技術だ。利用者の身体ではなく、“行動”によって認証を行うこのシステムは、AIの進化によって既に実用化されている。

生体認証は今、どこまで進化しているのか。今回は認証技術の現状に迫る。

AIで進化した生体認証

日々、進化を続ける生体認証システムは、日常生活でも多く見られるようになってきた。指紋認証でスマートフォンのロックを解除し、空港では指紋認証や顔認証を利用した保安検査を自然と受け入れている。かつては近未来的と思われていたそんな日常を現実のものとしたのが、AIの発達だ。AIの進化に伴い、認証も進化してきた。

ターニングポイントとなったのは、ディープラーニング技術の発達だ。ディープラーニングによって、AIは与えられた一部の情報を補足して全体の情報を生み出すという作業が可能になった。例えば、iPhone X(※)に実装されている顔認識システムには「TrueDepthカメラ」(※)と呼ばれるシステムが搭載されている。最初に顔を登録する時に、顔に赤外線ドットを射影し、顔データの画像生成を行う。

AIのディープラーニングを用いた顔認証システムであれば、顔写真をかざしたとしても、誤って本人と認識することはない。カメラに写っている“画像”を記憶するのではなく、ユーザーの“顔”そのものを学習するため、髪が伸びた場合やメガネなどのアクセサリーを付けている場合にも認証ができる。AIとディープラーニングの研究が進んだことで、人間の目よりも優れた認証を行うことができるようになったのだ。

普及する虹彩認証

こうして進化した生体認証は、様々な形で実用化されている。ニューヨーク発のスタートアップであるClear社は、虹彩認証をはじめとする生体認証を利用し、空港での保安検査を5分以内に短縮することを掲げている。ロサンゼルスやサンフランシスコの空港では、既にClear専用レーンが設けられており、空港での保安システムは書類による本人確認から徐々に虹彩認証に移行している。専用の器具に目を近づけて網膜を読み取る網膜認証に対して、虹彩認証はカメラが離れた位置にあっても認識することができる。また、眼球の角膜と水晶体の間に位置する虹彩は、何重にも保護されているので指紋のように傷つく可能性が低い。しかも、個々人が異なる模様を持っているという利点がある。

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Clearウェブサイトより)

2019年7月には、米ユナイテッド航空がClearとの提携を発表した。生体認証を用いて空港での保安検査の簡略化を更に進める。空港だけではなく、スタジアムやコンサート会場でも同様のシステムの導入を推進している。虹彩は網膜よりも読み取りが簡単なため、効率的なテロ対策としても期待されている。Clearの前身はV.I.P.(Verified Identity Pass)と呼ばれる会社で、Clearと同じく空港での保安検査に生体認証を用いるプロジェクトを掲げていたが、3万3,000人の顧客データを紛失する事故を起こしたことから破産の憂き目に遭っている。だが、現在の経営陣が600万ドル(約6億3,600万円 )をかけて同社を買収し、デルタ航空がすぐに5%の株式を購入して同社のプロジェクトを支援した。空港での生体認証の更なる活用に大きな可能性が秘められているということを示している。

また、虹彩認証については、死者の眼球を不正に使用された場合の対策研究にAIが利用されている。ポーランドのワルシャワ工科大学では、生者と死者の虹彩を撮影し作成したデータベースをAIに学習させた。これにより、死者の虹彩を生者のものと誤認するケースは1%にまで抑えることができたという。更なる精度の向上は求められるが、ここで特筆しておきたい点は、生体認証はAIを訓練することで精度を増す可能性を残しているということである。AIの進化と共に、認証の精度も進化し続けるのだ。

「顔パス」を実現する顔認証

虹彩認証と同じく空港でも利用されている顔認証の特徴は、特別な装置を必要としないことだ。スマートフォンのインカメラの画像や防犯カメラの映像を専用のアプリケーションで読み取り、データベース内の顔画像と照合することで本人確認を行う。デジカメやスマートフォンの顔認識、SNSでの写真へのタグ付けサジェスチョンでもおなじみの技術である。iPhone X(※)では顔認証システムのFace ID(※)が導入され、パスコードや指紋認証のように直接スマートフォンに触れる手法から、インカメラで顔を認識するだけでロックを解除できる手法へと移行した。

顔認証は、中国やヨーロッパでは防犯カメラに採用されており、指名手配犯の検挙にも活用されている。日本では羽田空港、成田空港、関西国際空港など、各地の空港でNECの顔認証システムが出入国審査に利用されている。現在は立ち止まって顔を読み取る形式だが、東京オリンピックが開催される2020年には、立ち止まることなくカメラが顔を認証する「顔パス」での出入国審査が実現する予定だ。

また、顔を認識する技術は感情認識にも応用されている。こちらもディープラーニングでAIが学習し、ユーザーの感情を認識するテクノロジーだ。

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フィンテックで活躍する静脈認証

生体認証はフィンテックの分野でも活用が進んでいる。静脈は体内にあるため、データが他人に知られにくい。一方で、静脈中の赤血球が近赤外線に吸収される性質を持っているため、専用の機器に手のひらをかざしさえすればデータを簡単に読み取ることができる。一見矛盾しているようにも聞こえるが、「盗まれにくく読み取りやすい」というのが静脈認証の長所なのだ。

静脈認証技術の開発で世界のトップを走るのは日本の富士通だ。2018年7月には、イオン傘下のイオンフィナンシャルサービスとイオンクレジットサービスが、富士通の「手のひら静脈認証」を利用した静脈認証による決済の実証実験を開始している。静脈認証を利用した決済サービスでは、手のひらの静脈の情報とクレジットカードの情報を紐付け、手のひらをかざすだけで支払いを行うことができる(イオンの実証実験では、誤認率を下げるため、顧客は静脈認証と共に生年月日の入力も行っている)。財布を持っていなくても、スマートフォンの充電が切れていても、静脈認証だけで買い物ができるとすれば、人々のライフスタイルは大きく変わることになるだろう。

銀行も静脈認証をフィンテックの分野で活用しようとしている。2019年7月、バンコック・ポスト紙は、タイで最も古い商業銀行であるサイアム商業銀行が決済の認証に非接触型の静脈認証を導入すると報じた。同行のエグゼクティブ・バイスプレジデントであるスリハナス・ラムサム氏は、このシステムでは、現金もカードもスマートフォンアプリも必要とせず、自分の手のひらだけで決済を完了できると話している。既にタイ各地に設置されている各種料金の支払い機に導入される他、将来的にはタイのセブンイレブンやスーパーマーケットのレジ等での利用を見込んでいるという。サイアム銀行は、2019年中にこのシステムの導入を目指す。

DNA認証が秘める可能性

生体認証の分野でまだ開発の余地があるのがDNA認証だ。DNA検査は犯罪捜査などで利用されているが、結果が出るまでに少なくとも数時間を要するという日常生活で利用するには致命的とも言える弱点がある。2000年に開催されたシドニーオリンピックでは、公式グッズのタグにIOC会長や選手のDNAから生成されたインクを貼付し、非正規品の流通を抑制したことが話題になった。ただし、実際にはDNAではなくインクに配合された蛍光剤を利用して識別を行っており、正真正銘のDNA認証が実現したわけではなかった。

一方で、DNA認証が生活レベルで活用できるようになれば、他の生体認証よりも確実に有利になる点がある。それは、シドニーオリンピックの例のように、人間以外にも適用できるということだ。生体認証は主に本人確認のために使われているが、自分のDNAインクを特定の品物に貼付すれば、それが自分の所有物だということを証明できるようになる。

DNA認証は、DNAを保有する有機体であれば対象となるため、将来的には、動物や植物などにも認証の手段として適用できる可能性がある。既に農水産物のトレーサビリティ(食の安全を確保するために原産地や生産者の情報を明らかにする仕組み)にDNA品種識別技術が用いられており、野菜や果物からDNAを摘出し品種を識別することができる。まだまだ開発の途上にあるが、可能性が残された分野であり、スタートアップにとってもチャンスがある領域だと言える。

AIが指紋認証を超える?

前述の通り、私たちの生活の中で最も身近にあるのが指紋認証だろう。スマートフォンのロック解除だけでなく、出退勤管理などにも使われるようにもなった。最もよく使われる生体認証の技術であるがゆえに、その研究も進んでいる。

2018年10月、ニューヨーク大学とミシガン州立大学が共同で指紋認証に関する研究結果を発表した。研究者たちは、機械学習を用いてAIを訓練した結果、複数の指紋と一致する「DeepMasterPrints」と呼ばれる指紋認証のマスターキーの開発に成功。スマートフォンの指紋認証の約三分の一を突破可能なキーを作り出した。AIの進化によって生体認証のセキュリティは向上しているが、同時にセキュリティを破られる可能性も増大しているのだ。

加えて、生体認証にはプライバシーに対する懸念もある。生体認証に利用される顔や指紋といった個人に固有のデータは、それ自体が究極の個人情報でもある。パスワードの場合は例えデータが流出しても、そのデータ自体を変更することができるが、顔や指紋はそういうわけにはいかない。生体認証のためにストックされたデータの流出や不正利用が起きた場合、利用者にとっては大きなリスクとなる。

もちろん、生体認証を扱っている企業はデータの二重暗号化などを通して外部からのデータ解読を防止している。Appleは顔認識に利用するデータがクラウドに送られることはないと表明している。前述の虹彩認証の例のように、死者の“生体”を利用した不正アクセスを見極めるAIの開発も進められており、プライバシー情報の流出防止のために多くの対策が講じられている。

次世代の生体認証、行動認証とは?

一方で、より高度なセキュリティを実現する次世代の生体認証として注目を集めているのが、行動的生体認証(以下、行動認証)だ。行動認証では、網膜や虹彩、指紋といった個人に固有の“デザイン”を読み取って認証を行うのではなく、デバイスのタップやスクロールといった人間の動きの“習性”をAIが解析・学習し、本人確認を行う。これまでの生体認証ではカメラに顔を向ける、指を置いて読み取らせるなど、所定の動作を実行する必要があったが、行動認証ではデバイスの操作など普段通りの行動をしているだけで認証が完了する。

行動の癖は個々人に特有のものであるため、不正アクセスを行うことは非常に困難だ。さらに、他の生体認証のデータと比べると、行動認証のデータ自体は「スマートフォンを何度傾けているか」といった情報でしかなく、ハッキング被害に遭って行動データが盗み出された場合も、用途が極端に限られている。

ニューヨークのスタートアップBioCatchは、行動認証の認識精度を約99%まで引き上げている。どの指でスマートフォンをタップするのか、タップする際の指圧の強さ、キーボードを叩くリズム、どのようにマウスを動かしているかなど、2,000以上もの項目の行動データを記録する。BioCatchは既に7,000万人のモニターからの月60億件ものトランザクションを処理しているという。

BioCatchが開発した行動認証システムは、イギリスのメガバンクであるロイヤルバンク・オブ・スコットランドが2016年から実証実験を実施している。実証実験の対象となっていたアカウントの一つは、実際に外部からハッキングを試みられたが、「そのユーザーが普段使わないホイールのマウスを使用していた」、「そのユーザーは普段数字を打つ際にキーボード右のテンキーを使うが、その時はキーボード上のキーで数字を打ち込んでいた」といった行動の違いからアラームが作動し、アカウントからの出金はロックされた。リアルタイムで不正ログインを防いだのだ。

大銀行や大企業が生体認証を扱いにくいという点は、以前から指摘されてきた。生体認証によって顧客が自身の健康状態を知られてしまうという懸念があるためだ。例えば銀行が保険事業を手がけている場合、顧客にとって保険契約が不利になる疾患についての情報を、銀行・保険事業者側に握られるのではないかという不安が常につきまとう。もちろん、生体認識で得た情報を濫用してはならないということは認識されているだろうが、各国での生体認証の情報利用に関する法整備は追いついていない。

最も議論が進んでいる米国カリフォルニア州では、2020年からデジタル個人情報の保護に関する新たな法律が施行される。行動認証を含む生体認証情報を企業が取得した際に報告を義務付ける内容だ。顧客がいかに安心して自分の情報を事業者に委ねることができるかという点は、業界が一致して取り組んでいかなければならない課題でもある。成長途中の分野であるがゆえの課題だ。

行動認証を含む生体認証は、今後も様々なフィールドで活用されていくだろう。AIの発達がその進化を牽引しているが、リアルタイムで大規模な通信が可能な5G通信や理論上改ざんが不可能なブロックチェーンなど、新たなテクノロジーと交わることで更なる可能性が生まれる。5G通信を用いれば、一台のカメラで大勢の顔認証や虹彩認証を同時に処理することができるだろう。ブロックチェーン技術を用いたスマートコントラクト(自動で契約とその履行を行う仕組み)と指紋認証が組み合わされば、拇印による契約が(それもコンピュータとの間で)最先端の形で蘇ることになる。

しかし、ここまで見てきたように、行動認証を含む生体認証を取り巻く環境はいまだ発展途中であり、プライバシーの扱いも含め、クリアするべき課題が多い分野でもある。そして、そのようなエリアこそ、スタートアップが輝ける可能性がある場所でもある。各種の生体認証の課題や特性を十分に理解し、社会のニーズに的確にフィットさせる戦略が求められている。

(※)iPhone X、Face ID、True Depthは、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標です。
*為替レートは2019/8/22時点

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