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スタートアップは顧客を主語にして仮説を構築せよ~正しい顧客の設定と仮説検証の具体的なプロセスとは

スタートアップは顧客を主語にして仮説を構築せよ~正しい顧客の設定と仮説検証の具体的なプロセスとは

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2019/09/03

田所雅之氏。スタートアップのアドバイザーなどを務めながらウェブマーケティング会社ベーシック(東京・千代田)のCSOも務める。

前回までは、『起業の科学 スタートアップサイエンス』の著者で、国内外で数多くのスタートアップを育成してきた田所雅之氏に、「仮説の解像度」、「顧客の課題発見」、「カスタマーサクセスの追求」について聞いてきた。スタートアップが戦略を練る上で、顧客の課題を見つけ出し、立てた仮説の解像度を高め、カスタマーサクセスへとつなげていくためのポイントが語られている。今回は応用編として、これまでの教訓を踏まえながら、「仮説構築のポイント」、「仮説検証に必要な具体的なプロセス」、「最も有効な仮説検証の形」を紐解いていく。

仮説構築のポイント

これまで、事業における仮説の重要性についてお話してきた。これまでに解説した仮説構築のポイントをおさらいしながら、重要な点をさらに深掘りしていこう。

① ニーズをプロットする

まず大事なことは、小さな市場でもいいので、誰のどんなニーズを対象とするのかをプロットする(収集したデータをもとに設計していく)ことだ。ここでもし、ニーズがプロットできないのであれば、インサイト(顧客自身も気づいていない潜在的な欲求)のインプットが足りていない。そして、ニーズをプロットできれば、インタビューを通して仮説検証を行う。そうすることで、カスタマーサクセスよりも先にカスタマーフェイルア(failure:失敗)を明らかにするのだ。このようにマクロ(市場のプロット)とミクロ(個々の顧客のニーズ)の両方の視点を使いながら、仮説の解像度を上げていく必要がある。

② 市場の明確化

次に行うべきことは市場を明確にすることだ。分かりやすい例を示すと、「左利き用のハサミだけを売るな」ということだ。どんなに優れた商品であったとしても、対象となるユーザーが1割しか存在しなければ市場の領域と大きさは限られてしまう。その事業がどれだけのポテンシャルを持っているかは、フェルミ推定(いくつかの事実を根拠に概数を論理的に推定すること)を行うことである程度出すことができる。その市場が十億円の市場なのか、百億円の市場なのか、千億円の市場なのかという程度の推測は可能だ。そして、十億円に満たない市場であれば、その事業は基本的にはやるべきではない。VC(ベンチャーキャピタル、ベンチャー企業への出資を行う投資家)の世界では百億円規模の市場を狙うのが基準であって、それ以下ではどんなに手数料が取れたとしてもVCが出資に際して背負うリスクに見合わないからだ。

③ 少し先のニーズを見つけ出す

そして、ニーズをプロットする際には今現在のニーズではなく、少し先のニーズを掘り起こすこともポイントの一つだ。AirbnbやUberは2008年に登場したが、2008年時点のニーズに合わせてサービスを最適化したわけではない。2008年はまだミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭の間に生まれた、いわゆるデジタルネイティブ世代)はメインの購買層ではなく、スマートフォンの普及率もわずかであった。その環境にも関わらず、Uberは「スマートフォンファースト」ではなく、「スマートフォンオンリー」の世界を構築した。つまり、スマートフォンがどれだけ普及するかというトレンドを理解していたということだ。Uberは2019年にIPO(株式公開)したが、それは10年後の市場を見据えていたということの裏付けに他ならない。その予兆を知るということ、人口動態や技術的なトレンドを把握することが大切であり、起業家の評価はその先見性で決まる。ソフトバンクの孫正義氏の言葉を借りると、「50歩先を見ながら1歩先をマネタイズする」ということだ。ミクロとマクロの双方の視点を忘れないこと――投資家はそれができているかどうかを見極める。そうして考えられたアイデアにはそれに対する代替案が必ず存在する。代替案を過小評価せず、冷静に分析することも重要だ。

GAFAに学ぶ顧客の選び方
アマゾンはニッチな書籍をターゲットに

仮説検証を成功させるポイントとして挙げられるのが、対象とする顧客の設定を間違えないことだ。GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)がなぜ成功したのか。その理由は、エントリー市場が良かった、つまり、最初に対象とした顧客が適切だったからだ。もしアマゾンが創業時からソフトウェアや生鮮食品を扱っていたとしたら、今のアマゾンはなかっただろう。アマゾンは最初に書籍の市場に目をつけた。商品として販売できるものは世の中に山ほどあるが、実店舗で予約して購入するのか、あるいはネット上で購入するのか、顧客の購買プロセスにもさまざまなパターンがある。アマゾンの主戦場であるインターネットというプラットフォームを考えたときに、その強みはニッチな商品(タイトル)でも在庫を持たずに取り扱えるということだった。

アマゾンの共同創業者であるジェフ・べゾスは、実際に書店に行った際、実店舗では、売れ筋ではない書籍の在庫を抱えていないことに気が付いた。そこで、プロダクト・マーケット・フィット(顧客のニーズに応える製品が市場で受け入れられている状態)を発生させようと考えたのだ。インターネット上のプラットフォームの原理を押さえていたことがポイントで、在庫コストが発生しないという利点には書籍が最もフィットするのではないか、という仮説に至った。

フェイスブックは「実名性」のニーズを発掘

これと同じように、フェイスブックも当初は「ハーバード大学の学生」にターゲットを絞った。ある程度自己顕示欲が強く、自分に自信を持っている学生でなければ、実名性のソーシャルネットワーク・サービスはうまくいかなかっただろう。一方で、当時の類似サービスだったMySpaceやFriendsterでは、ニックネームを使用しており匿名性があったため、他のユーザーから誹謗中傷を受ける可能性も高かった。サービスの対象となる顧客の考え方を検証した際、フェイスブックの共同創業者マーク・ザッカーバーグ自身もその問題に不満を持っており、フェイスブックのような実名ソーシャルサービスを作るという発想に至ったのだ。

グーグルの「知」に対する先見性

グーグルも同様だ。一般ユーザー向けの検索エンジンをリリースする前に、グーグルはスタンフォード大学内で論文のバックリンクをスコア化していた。バックリンクとはウェブ上で他者にリンクを張られることを意味する。これを利用して、グーグルは論文の引用件数を測定していた。論文のバックリンク・スコアが高いほど、認知度と信頼度が高い良い論文だということになる。これがページリンク数のランキングとなった。これを基に、充実した内容のページほど検索結果の上位に表示される現在の仕組みが築かれ、グーグルは検索エンジンサービスを展開させていった。

もともと、どの論文が信頼に足る内容か、そして外部からどのように評価されているかということを可視化するのは、スタンフォード大学のような「知」の集積場の課題だった。その後、現在のように、誰もがインターネットで発信し、知識や情報を得ることができる時代が到来したのだが、その課題が広く共有される頃にはグーグルが既にソリューションを提供しているという状態を作り上げたのだ。

私はこれらの戦略を「Go to Market Plan」と呼んでいる。全員を対象にするのではなく、課題を感じているのは誰かという視点で自ら市場に歩み寄り、仮説を立てていく。そうすれば自社のサービスやプロダクトは、適切な顧客、つまり課題を抱えソリューションを求めている顧客のもとに届き、より的確な反応を得ることができる。どこにニーズがあるのかという市場の定義とバリューチェーン(自社の事業を機能別に分類し、有効性と課題を分析すること)は必ず分けて考えなければいけない。繰り返しになるが、マクロとミクロの両方の視点を用いて顧客がどこに存在するのかを見極めていくのだ。

次に、顧客を見極めた上で構築した仮説を具体的な検証のステップへと進めていく。

仮説検証に必要な具体的なプロセス
ありのままを聞く

仮説検証の最初のステップは、立てた仮説をもとに顧客にインタビューを実施し、課題を発見することだ。自社のサービスやプロダクトを利用した顧客のもとに赴いて直接話を聞き、彼らが便利だと思ったポイント、逆に不便に感じたポイントを聞き出し、改善と次の開発につなげていく。インタビューをする際には、サービスをどのように利用しているのか、ありのままに話してもらう必要がある。

ここで留意すべきは、見つけるのは顧客が抱える課題、つまりカスタマーペインであるという点だ。実際にペインを感じているかどうかが肝心で、ペインを感じていない人に話を聞いても何も得られない可能性が高い。また、答えありきで顧客を誘導してしまっては、顧客のインサイトに辿り着くことはできない。カスタマーペインを伝えてくれる顧客を見つけ出すまで、辛抱強くインタビューに取り組まなければならない。

エバンジェリスト・カスタマーに聞く

前述の通り、仮説検証には顧客選びが重要になる。インタビューを行う相手には、「エバンジェリスト・カスタマー」を選ぶ。エバンジェリストとは、本来「伝道師」を意味する言葉であり、流行に敏感で、積極的に情報収集を行う顧客を指す。良いと思ったプロダクトやサービスを他の消費者に売り込んでくれるため、大きな影響力を持つ。また、現在抱えているペインに敏感なため、他の顧客が気づいていない課題を発見しやすい。繰り返しになるが、誘導は不要だ。

インタビュー相手をよく知る

インタビューで大切なのは、相手をよく知ることだ。相手がエバンジェリスト・カスタマーである場合、「How, What, How much」の三つを聞き出す。つまり、どのようにして現在抱えている不満を解消しているのか(How)、そのソリューションの課題はどこか(What)、その課題を解決するためにどれくらいの予算を支払うことができるか(How much)を知り、仮説を実際のプロダクト作りにつなげていく。

インタビュー相手の弟子になる

有益なインサイト(顧客自身も気づいていないが認識すれば行動を起こす隠れた心理)を持っている顧客には、その顧客の弟子になる気持ちでインタビューに臨むといい。インタビュアーの持っている思い込みを覆してくれる可能性がある。対象としている業界に精通している人物であれば、自分たちの努力だけでは辿り着けなかった気づきを与えてくれる。同時に、「もっと詳しく聞かせてもらえませんか」と、相手から話を引き出すことも重要だ。インタビュー相手が「話していて気づいたのですが」と自ら話し出す状態をこちらから作りだす。インタビューは対話によって磨かれ、深掘りされていくものだ。

インタビューオーナーになる

インタビューをとる側に視点を移すと、スタートアップの創業者自らがインタビューをとることが大切なポイントだ。創業者が顧客の目線で語ることができる、顧客のペインやニーズに対して深い理解を持っているということが、スタートアップにとっては重要だ。Airbnbの共同創業者であるブライアン・チェスキーも、サービスを始めた後にニューヨークのホストを一軒ずつ訪問して話を聞いている。

インタビュー相手の話を分析する

インタビューを通して収集した情報は、そのまま利用しようとしてはいけない。たとえ洞察力に優れた顧客であっても、それを言語化することには不慣れな可能性もある。対話を通して情報を磨き、深掘りしていくことは重要だが、顧客のインサイトを見極め、本当に欲しているものを見つけ出すことは、スタートアップが担う仕事だ。他の誰にも言語化できていないニーズを見つけ出す作業は決して簡単なことではないが、その部分にこそスタートアップのチャンスが眠っているのだ。

KJ法を活用する

インタビューで得た仮説検証の材料を言語化する手段としては、KJ法が有効だ。KJ法とは、1967年に川喜田二郎氏が考案した手法で、現在でも使える優れたツールだ。その手順は以下の6つのステップに分かれる。

①インタビューデータを収集する
②収集したデータを細かく分類する
③分類したデータをグループ化する
④グループごとに適切なラベルをつける
⑤グループ同士の関連性を書き出す
⑥課題の真因を言語化する

この過程を通して、顧客の建前やお世辞を見抜き、その奥にある本音や潜在的な課題を引き出す。ポイントは、KJ法でグループ化することを前提としたインタビューは行わないことだ。あくまで、顧客の生の声から全体を構成していく必要がある。また、最低でも5人にインタビューを取らない限り、ロジックの大枠は見えてこない。私はこのステージで最低でも20人にインタビューを行う。安易に作り上げたロジックに飛びつくのは禁物だ。

最も有効な仮説検証の形

最後に触れておきたいポイントは、仮説検証を行う対象はサードパーティ(第三者)にこだわる必要はないということだ。私が支援したあるスタートアップが取り組んだ新しいスタイルを「ファーストパーティ型」と呼んでいる。

このスタートアップは、これまで人間が手動で行っていたあるサービスを人工知能で代替しようとしていた。そして、その仮説検証のために、顧客となる企業に協力を求めて回るのはスピード感に欠けると判断した。そこでこのスタートアップは、自社のサービスを利用して欲しい事業、具体的には化粧品の代理店を自社で立ち上げた。その上で、自分たちで試験的なサービスを大量生産し、それを実際に使うことで、どれが成果を生むかということを検証していったのだ。

実は仮説検証はインタビューをするよりも、自社内で行う方がスピードも精度も上がる。サードパーティだけを対象にするのでは動きが遅くなるので、余力があれば自社で代行してしまうほうが良い。自分自身が当事者であること、つまりそのサービスの顧客であることによって、最も優れたインサイトが手に入る。

ただし、外部の顧客へのインタビューは、最も優れたインサイトに行き着くために最初に取り組まなければならないステップであることには変わりはない。そうしなければ、顧客の課題や需要のありかが分からないからだ。このスタートアップが自社のプロダクトの仮説検証の場として化粧品販売事業が相応しいと気づいたのも、20社に及ぶ顧客へのインタビューを行った結果だった。

「顧客」を主語にした事業設計を

アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは市場として書籍を選び、西海岸で事業を始めた。大切なことは、なぜそれを選び、そこでやるのかを説明できることだ。仮説検証の結果、もしその仮説が的外れだったとしても、修正して答えを探し出していけばいい。その前提として「カスタマーサクセス」という考え方を持っておく必要がある。そのためにも、どこに顧客がいるのかをミクロとマクロの視点で見極め、インタビューを通して彼らのペイン=痛み=ニーズをよく知る努力を続けなければならない。

大事なことは、主語を常に「顧客」にすることだ。私が紹介する枠組みは、全て主語が「顧客」になっている。決して「自社のプロダクト」を主語にしてはいけない。例えばアマゾンは「Customer Obsession」、顧客に対してこだわる(Obsession)ということが常に主語になっており、会社のDNAになっている。そもそもなぜ事業をやるのかといえば、それは顧客のためだ。それが事業の、そしてスタートアップの存在意義だとすれば、「顧客」を常に主語にすることこそが成功のカギになる。

■ 田所雅之

1978年生まれ。日本で4社、米国で1社のスタートアップを起業。帰国後、米国ベンチャーキャピタルのベンチャーパートナー。スタートアップのアドバイザーなどを務めながらウェブマーケティング会社ベーシック(東京・千代田)のCSOも務める。スライド集『スタートアップサイエンス』を作成し、国内外で50,000回以上シェアされ大きな反響を呼んだ。2017年、ユニコーンファーム(東京・港)を設立し、スタートアップの育成支援に注力する。また、複数の上場企業のイノベーション推進顧問を務める他、国内大企業および外資系企業の新規事業開発アドバイザーを担い、経済産業省主催のスタートアップ支援プログラムの委員も務める。2018年11月より、オープンイノベーション/産業革新の内閣府審議会メンバー。著書『 起業の科学 スタートアップサイエンス 』はAmazon経営管理カテゴリーで88週連続1位。(原稿作成時点)

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