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スタートアップはプロダクトより先にUXを設計せよ~カスタマーサクセスの追求こそが成功の近道

スタートアップはプロダクトより先にUXを設計せよ~カスタマーサクセスの追求こそが成功の近道

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2019/08/05

田所雅之氏。スタートアップのアドバイザーなどを務めながらウェブマーケティング会社ベーシック(東京・千代田)のCSOも務める。

産業構造が高速で変化する今、スタートアップにもまた変化が求められている。多様なサービスが登場し、個人の選択肢が増えている現代においては、ユーザーに選ばれ続けるための工夫と努力が欠かせない。製品やサービスを通してユーザーが得る体験を意味する「ユーザーエクスペリエンス=UX」において、いかにその満足度を高めていくかがビジネスの鍵となる。そして、ユーザーエクスペリエンスを向上させるためには、能動的に顧客に働きかけて利用継続率を上げていく「カスタマーサクセス」を追求することが必要だ。

前回(「顧客の課題発見」)、前々回(「仮説の解像度」)に続き、今回も『起業の科学』の著者で、国内外での豊富なスタートアップ育成の実績を持つ田所雅之氏に、「カスタマーサクセスの追求」について話を聞いた。前回触れた「プロダクト先行の思考からの脱却」というテーマを更に深掘りし、スタートアップが取り組むべき戦略について考える。

プロダクト先行ではなく、ユーザーエクスペリエンス先行の仮説を

スタートアップが陥ってしまいがちな失敗のひとつは、仮説の検証を充分に行わずにいきなりプロダクトを作り、そのままプロトタイプの検証を始めてしまうことだ。多くの人はプロダクトを先に設定し、その範囲内でユーザーエクスペリエンス(UX)とマーケットを定義してしまう。2010年代初頭頃までは、このようなプロダクト先行のビジネスモデルで通用していたが、これからはユーザーエクスペリエンスを最適化するためにプロダクトやマーケティングを活用する、という考え方を持つ必要がある。

広い意味で言えば、価値提供とはユーザーエクスペリエンスのことであって、あらゆるものはユーザーエクスペリエンスに内包されると私は考えている。マーケットもユーザーエクスペリエンスの一部であり、そもそも顧客がプロダクトとどのように出会うかによって、そのプロダクトの印象は決まってしまう。まずプロダクトが顧客に与える第一印象を検証し、顧客の負担を減らすことが肝要であり、従って、プロトタイプを作る前にしかるべきユーザーエクスペリエンスを設定しなければならない。

「エスキモーの冷蔵庫」というセールスマーケティングにおける教訓がある。エスキモーは、シベリアで生活する先住民だ。極寒の地で暮らしているのだから、彼らは食材を外に出しておくだけで自然冷凍することができ、一見、冷蔵庫を必要としていなかった。だが、あるセールスマンはそのエスキモーに、冷蔵庫を「食材を冷やす道具」としてではなく「食材を凍らせることなく保存できる道具」として売り込んだ。その結果、彼らの間に、食品が自然に凍ってしまうより便利だという考えが広まり、冷蔵庫は飛ぶように売れた。この話は、同じプロダクトでもマーケティングの切り口によって別の需要が出現するという教訓として広まった。

エスキモーに冷蔵庫の利便性を説いて売るというのは、あくまでプロダクトが先行したビジネスのあり方だった。このスタイルは、売り手市場でしか成り立たない。これまでの市場では、継続して利用しているプロダクトやサービスから別のものに乗り換えるためのコスト(=スイッチングコスト)が高く、顧客の選択肢はそれほど多くなかった。

だが、現在では以前よりもスイッチングコストは低くなっている。ソフトウェアやサービスは比較的楽に乗り換えることができる上、競合も多い。つまり、買い手市場なのだ。そしてその前提で成果をあげていくためには、顧客にいかに上質な経験を提供することができるかがポイントとなる。プロダクトよりも、ユーザーエクスペリエンスを先行させた仮説を立てることのできるスタートアップが、すなわち、勝てるスタートアップなのだ。

代替案を甘く見てはいけない

スタートアップが陥りがちなもう一つのミスは、自社のプロダクトやアイデアを過大評価し、他の代替案を過小評価してしまうことだ。

例えば衣類を自動で畳む機械を作るというアイデアにおいては、“人間が自分で畳むことができる”という代替案をないがしろにしてはいけない。仮にこのプロダクトをハイエンドユーザー向けに作ってしまうと、そうしたユーザーは既に家事代行サービスを頼んでいたりして、新たな需要は生まれない。プロダクトそのものの値段や電気代などのコストを考えると、一般家庭向けだとしてもこのアイデアは成立しなくなる。もちろん、技術的な進歩によって将来的に製造コストが安くなるという仮説も成り立つし、ターゲットをホテルや清掃業者などに絞った上で、BtoBで取り組むこともできるだろう。既存の代替案の中に負の側面(=カスタマーペイン)を見つけることもできる。だが、いずれにしても究極的には、まずプロダクトありきの発想はやめなければいけない。

そもそも仮説検証の段階で、自社のプロダクトが選ばれるかどうかということだけではなく、プロダクト・マーケット・フィット(PMF=顧客を満足させるプロダクトを最適な市場に提供している状態)を継続的に維持できるかということを考える必要がある。これまではプロダクトを販売しておしまいだったが、今ではプロダクトと顧客との接点が大切だ。選ばれ続けるためには、顧客の母集団を形成し、どれだけ顧客とのタッチポイントやインプレッションを増やせるかということが重要になる。

※プロダクト・マーケット・フィットについてはこちらの記事が詳しい

成功するスタートアップが事業計画よりも大事にすること~正しいサイクルで仮説の解像度を上げろ~

顧客を喜ばせ続ける≒カスタマーサクセスの追求こそがスタートアップの成功への近道

ユーザーエクスペリエンスを十分に検討した先に、上質なカスタマーサクセスがある。これまで顧客の不満を解決する企業活動は「カスタマーサポート」と呼ばれてきた。お客様相談窓口などがその代表的な例だ。不満があれば顧客の側から企業にアクセスする必要があった。これに対し、カスタマーサクセスでは能動的に顧客の継続利用率を高め、LTV(Lifetime Value = 顧客生涯価値)を最大化していく。モノを売るビジネスが中心となっていた時代が終わり、ソフトウェアとサービスがビジネスの中心となった現代においては、いかにカスタマーサクセスの質を高めていくかが鍵となる。

カスタマーサクセスには定性的な側面と定量的な側面がある。まずは定性的な側面をみていこう。

なぜAirbnbが5兆円企業になったか。共同創業者でCEOのブライアン・チェスキーは、2011年の段階で「顧客にとってのイレブンスター(11つ星)エクスペリエンスとは何か」と考えた。例えば、5つ星ではホストが迎えに来る。11つ星では空港に降り立つとイーロン・マスクが出迎え、そのまま火星に出発する。だが、現実的には実現できないので、それならば6つ星、7つ星、8つ星でできることは何か、と考えていった。高級ホテルが「お客様」に提供するもてなしは5つ星だろう。だがAirbnbが5つ星を超えるサービスとして考えたのは、旅行者が訪れた場所を、「自分の故郷や居場所にする」という経験を提供することだった。このような経験においては、「観光」や「お客様扱い」という旅行業界の限界を超えていくことができる。

まずは、顧客が最高レベルのイレブンスターに辿り着くまでの行程を描いてみる。その過程で5つ星を超えるカスタマーエクスペリエンスが見えてくる。私はこれを「カスタマーサクセスマップ」と呼んでいる。

カスタマーサクセスを指標化して分析する

次に定量的な側面をみてみる。一般的にカスタマーサクセスは、まずはプロダクトへの期待値があり、次に、顧客がプロダクトに慣れるまでのプロセスがあり、オペレーションがあり、成果をあげる、という複数のプロセスに分かれる。これらのプロセスをきちんと計測し、定量化することができるかどうかが、上質なユーザーエクスペリエンスを提供できるかどうかの分かれ目だ。これを図示したのが以下のグラフだ。

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(画像:田所雅之氏Facebook)

Airbnbはイレブンスター・エクスペリエンスを目指すというミッションを公開し、時価総額が大きく上がった。このミッションを定量化する際に、上記の「カスタマー・ヘルススコア」と呼ばれるグラフを作成する。カスタマーエクスペリエンスをレベル11まで設定した後に、顧客の利用率、利用時間、問い合わせの頻度など、具体的な数字をもとに顧客の離脱率を指標化したものだ。

例えば、インスタグラムもフェイスブックも、顧客はいきなり利用頻度が高くなるわけではない。使い始めてからエンゲージメント(企業自体や商品やブランドなどに対する消費者の深い関係性のこと)が高い状態になるまで、顧客は毎日階段を登っていく。それぞれに山があり谷があり、それを越えるためにはどのようなオペレーションやスキル、マインドセットが必要かということを作り手側が認識しなければならない。そのためには、顧客のレベル、オペレーションのタイプ、チャネル(集客するための媒体、経路)といった項目を整理していく必要がある。その分析をもとにカスタマーサクセスにおけるマニュアルができていく。

カスタマー・ヘルススコアと顧客の離脱との間に相関関係がなければ、再現性を見出すことはできず、対策を打つことも難しい。スコアが高いにも関わらず顧客が離れてしまうということは、そもそもPDCAサイクルのC=Check(検証)の部分が間違っているということだ。

また、結果として成功したとしても、分析だけではその理由が分からない場合もある。その時もカスタマー・ヘルススコアを作成し、オペレーションの中身と検証結果を明らかにすると、なぜ顧客の離脱が減っているかということが分かってくる。

このように、全ては因果関係の中にある。カスタマー・ヘルススコアをはじめ、カスタマーサクセスを向上させるためのオペレーションがあり、その先にプロダクトがある。それを実現するための人事があり、組織があり、そもそもの事業戦略がある。そして、顧客の満足度を高めることこそが事業の目的であることを決して忘れてはいけない。そのためには、最適なメソッドを用いて検証を行う努力を惜しまないようにしよう。

■ 田所雅之

1978年生まれ。日本で4社、米国で1社のスタートアップを起業。帰国後、米国ベンチャーキャピタルのベンチャーパートナー、スタートアップのアドバイザーなどを務めながらウェブマーケティング会社ベーシック(東京・千代田)のCSOも務める。スライド集『スタートアップサイエンス』を作成し、国内外で50,000回以上シェアされ大きな反響を呼んだ。2017年、ユニコーンファーム(東京・港)を設立し、スタートアップの育成支援に注力する。また、複数の上場企業のイノベーション推進顧問を務める他、国内大企業および外資系企業の新規事業開発アドバイザーを担い、経済産業省主催のスタートアップ支援プログラムの委員も務める。2018年11月より、オープンイノベーション/産業革新の内閣府審議会メンバー。著書『 起業の科学 スタートアップサイエンス 』はAmazon経営管理カテゴリーで84週連続1位。

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