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Grabはいかにしてメガユニコーンになり得たのか~ライドシェアからフィンテックまで展開するその戦略とは

Grabはいかにしてメガユニコーンになり得たのか~ライドシェアからフィンテックまで展開するその戦略とは

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2019/05/28

東南アジアのメガユニコーン

未上場ながら評価額が10億ドルを超える企業を“ユニコーン”と呼ぶ。中でもシンガポールを拠点におくライドシェア(オンライン配車サービス)のGrabは、評価額100億ドルを超える“メガユニコーン”だ。しかも、東南アジアを拠点とした企業としては、Grabは初のユニコーン企業であり、2018年6月には業界最大手のUberが東南アジアでの全事業をGrabに売却し同地域から撤退することを発表するなど、世間を驚かせ続けている。

フィンテック企業 TOP10に選出

驚異的なスピードで成長を続けるGrabは、その資金調達額も飛び抜けている。ベンチャーキャピタルのH2 Venturesと大手会計監査組織のKPMGが公開した「2018 FINTECH 100」では、注目のフィンテック企業としてTOP10に選ばれた。このリストが公開された2018年10月の時点で、Grabの総資金調達額はTOP10中第3位の66億ドル(約7,374億円)であった。

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巨額の資金調達への道のり

Grabが巨額の資金調達を達成するまでの道のりは、どのようなものだったのだろうか。Grabの共同創業者のアンソニー・タン氏は、ハーバード・ビジネススクール出身のマレーシア人だ。2011年に同ビジネススクールを卒業すると、2012年に自身の資金とハーバード・ビジネススクールからの援助を合わせた2万5,000ドル(約280万円)の資金を元に事業を開始した。

経営者一族の生まれであった同氏は、家族から強い反対を受けながらも、スタートアップの世界に身を投じた。地域が抱える様々な課題と向き合い、労働組合との交渉を重ね、“ライドシェア”という概念すら存在しなかったマレーシアに新たなビジネスとカルチャーをもたらした。後述するが、このローカルに対する真摯な姿勢が、のちにGrabという会社を語る上で重要なポイントとなっていく。

Grabは東南アジアに着実に根付いていき、創業から1年後の2013年にフィリピン、タイ、シンガポールで、2014年にはベトナムとインドネシアでサービスを開始する。2014年4月には、シンガポール発のベンチャーキャピタルVertex Venturesから1,000万ドル(約11億1,000万円)の資金調達を達成。その1ヶ月後には米GGV Capitalから1,500万ドル(約16億7,000万円)を調達。同年10月には、両社を含む4つの企業から計6,500万ドル(約72億6,000万円)の資金調達に成功している。

だが、そのわずか2ヶ月後の同年12月、更に世間を驚かすニュースが飛び込む。ソフトバンクグループがGrabへ2億5,000万ドル(約279億3,000万円)の出資を行うことを発表したのだ。2015年8月には中国のライドシェア大手、滴滴出行や、中国政府系ファンドのChina Investment Corporationなどから計3億5,000万ドル(約391億円)を調達。2016年にもソフトバンクから7億5,000万ドル(約837億9,000万円)、2017年にソフトバンク、滴滴出行などから25億ドル(約2,793億円)を調達し、2019年3月には、ソフトバンク、トヨタ自動車、現代自動車などから、45億ドル(約5,027億円)もの資金を調達したことが発表されている。

Grabの魅力とは

東南アジアから登場したGrabに、なぜこれほど大きな注目が集まっているのだろうか。Grabがただライドシェアを提供するだけのスタートアップ企業であれば、ここまでの規模の資金調達は不可能だったはずだ。ライドシェア企業として2012年に事業を開始したGrabが、他業種にも急速に事業を拡大し続け、投資家やベンチャーキャピタルのハートを射止めていったことは見逃せない。

Grabは東南アジアの8カ国で毎日計600万回のライドを提供しているが、ライドシェアから派生したGrabShuttle(シャトルのオンライン配車)やGrabTaxi(タクシーのオンライン配車)の他に、配車サービスの延長線上として、フードデリバリーのGrabFoodやラストワンマイルデリバリーのGrabExpressなども手がけてきた。ライドシェア用のコミュニケーションツールとして開発されたGrabChatは、自動翻訳機能を備えた優れもので、言語が異なるドライバーと乗客との間でGrabChatを通じてコミュニケーションをとることができる。

一方で、このようなライドシェアを中心とした事業拡大はUberも同様に取り組んできたことだ。GrabもUberも自動運転車を利用したタクシー配車サービスの実現へ向けて開発を進めており、ライドシェア業界が次世代の「移動」を担っていくことは明らかだ。

フィンテックがその基盤に

Grabの強みは、フィンテック系サービスにおいても積極的な展開を見せていることにある。2017年にリリースされたGrabPayでは、Grab系サービスでの支払いはもちろんだが、2017年12月からはユーザー間での送金も可能になった。今後は保険事業も拡大していく予定だが、Grabはすでにバイクのライドシェアを提供するGrabBikeのドライバーと乗客を対象に無料の保険を提供している。シェアリングエコノミーにおいては保険への加入がドライバーの責任になることが従来から問題となっていたが、とりわけ東南アジアで主要な移動手段であるバイクに不可欠なサポートとして、Grabはその実績を積んできている。

その保険事業を含む多様なサービスを展開していくための舞台として、2018年7月、Grabは関連アプリを統合する「GrabPlatform」の構想を公開した。ZhongAn Internationalと提携しての保険事業、HOOQと提携しての動画配信事業、Booking Holdingsと提携してのホテル予約事業など、その事業内容は多岐にわたる。2019年3月の45億ドル(約5,027億円)にのぼる資金調達は、まさにこれらのサービスの発展のためだ。ライドシェアの枠組みをはるかに超えたビジネス展開がなされるが、その基盤では常にGrabPayが稼働することになる。すでにライドシェア事業を通して数千万人がGrabアプリをダウンロードしており、東南アジアにGrabアプリを通じた一大プラットフォームが築き上げられることが予想される。

複数のフィンテック系サービスが多重に連携したプラットフォームは、一つのエコシステムとして機能する。どのようにしてシェアリングエコノミーが信用創造に結びつき、金融事業をも包括するエコシステムを築き上げていくか、という点については、以下の記事を一読いただきたい。

シェアリングエコノミーのキモはフィンテック~Airbnb、Uberが「信用創造」できるその理由

Grabが急成長を遂げた理由

東南アジアを包括する巨大プラットフォームになりつつあるGrabだが、設立されたのは2012年。わずか数年で巨額の資金調達を達成し、多数の企業が参加する一大プラットフォームを築き上げるまでに成長したポイントは、どこにあったのだろうか。Grabの成り立ちを振り返りながら分析してみよう。

① CEOとCOOのコンビネーション

Grabが最初に設立されたのはマレーシアだ。前述の通り、Grabの共同創業者アンソニー・タン氏はハーバード大学のビジネススクール出身。友人からマレーシアでタクシー料金を過剰請求されたという話を聞いたことから、オンライン配車サービスを思いつく。このアイデアについて相談したハーバード大学の教授からは「実現は難しい」と言われるも、ハーバード・ビジネススクールのビジネスプラン・コンテストでは第二位を獲得する。マレーシアに戻ったアンソニー・タン氏は、ハーバード大学の学友であったタン・フーイ・リン氏と共に配車アプリのMy Teksiを立ち上げる。のちにGrabとして知られるようになる同社への最初の資金援助は、前述の通りハーバード・ビジネススクールによるものだった。

アンソニー・タン氏にとって大きかったのは、GrabのCOO(最高執行責任者)を務めるタン・フーイ・リン氏の存在だ。タン・フーイ・リン氏は、スタッフが取り組む実際の業務を管理し、あくまで裏方に徹した。その間、アンソニー・タン氏は表舞台に立ちマーケティングと資金調達の役割を担った。それぞれの能力に長けた二人のコンビネーションを、タン・フーイ・リン氏はForbes誌のインタビューで「陰と陽」と表現している。

GrabTaxi's 'Other' Founder Talks About Return to Company - Forbes

経営者一族の生まれであったアンソニー・タン氏に対して、タン・フーイ・リン氏は中流階級の出身。彼女の父は土木技師で、母はブローカーだった。それぞれに異なるバックグラウンドと能力を持った二人は、CEOとCOOという立場で役割を分担し、Grabの広範にわたる事業を牽引し、また支えてきた。互いの力を補完し合えるビジネスパートナーを持つことの大切さがよく分かるエピソードだ。

② ハイパーローカル戦略

この二人を中心として、Grabは東南アジアを基盤に事業を展開させていく。2018年3月には、Grabの最大のライバルであったUberが東南アジアの事業を全て手放し、競合のGrabに売却することを発表した。東南アジアのスタートアップであるGrabがライドシェア業界の第一人者であるUberを破ったというニュースは、シェアリングエコノミーの世界に衝撃を与えた。だが、Grabが東南アジアで成功を収めた背景には、同社の徹底した戦略が存在していた。

それは、サービスを現地の言語やカルチャーに適応させるローカライゼーションだ。Grabのウェブサイトを見ると、同社が東南アジアの各地域にどれだけ注力しているかが分かる。Grabがサービスを提供する8カ国の全言語にローカライズされていることはもちろん、各国の文化に合わせたストーリーが配信されている。例えば、インドネシアでは交通手段の大部分をバイクが担う。インドネシアのGrabウェブサイトでは、バイクタクシーのストーリーを中心とした記事が配信されている。

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Grabウェブサイトより

CTOの発言から読み取る姿勢

東南アジアにおけるGrabの成功は、「ハイパーローカル戦略=Hyperlocal Strategy」という言葉とセットで語られる。GrabのCTO(最高技術責任者)であるセオ・ヴァシラキス氏は、東南アジアでの展開について、2018年10月にシンガポールで開催されたFUTRアジアサミットの基調講演で次のように述べている。

「全ての国に異なる特徴があります。異なるインフラ、異なる規制、異なるシステム、ユーザーからの異なる希望––––全て同じではあり得ないのです。それを忘れずにそれぞれのマーケットにアプローチしていけば、より良い結果を生み、より多くの変革をより早くもたらすことができます」

テクノロジー部門のトップからこのような言葉が出ること自体、ローカライズを重視するGrabの強い姿勢を表しているといえる。この言葉を具現化するように、Grabは、カンボジアで三輪タクシーのトゥクトゥクを対象としたGrabTukTukを展開。フィリピンでは、庶民の足となっている三輪車トライシクルをGrabTrikeとして展開している。

さらに、キャッシュレス化が進んでいない地域では現金支払いを受け入れるなど、柔軟に対応している。キャッシュレス化の流れの逆を行く戦略だが、現金支払いは、Uberにはない特徴として現地の人々に受け入れられることになった。加えて、EUとは異なり、東南アジアでは各国が独自の通貨を利用していることから、現金での支払いにより「Grabが地元にやってきた」という認識を利用者に植えつける効果もあった。

東南アジアにこだわる二つの理由

COOのタン・フーイ・リン氏が強調するのは、“東南アジアへの情熱”だ。共同創業者の二人ともがハーバード・ビジネススクールで学び、タン・フーイ・リン氏は米国に拠点を置く大手コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーで職を得ていたにも関わらず、東南アジアに舞い戻った。Grabは2014年にマレーシアから本社を移したが、新たな拠点はシンガポールであり、現在Grabが事業を展開する8カ国も全て東南アジアだ。

タン・フーイ・リン氏は、東南アジアにこだわる理由は二つあると話している。一つ目は、そこが彼女たちにとっての「ホーム」だから。これは本心から出た言葉だと思われるが、まず地元であることを掲げること自体、ローカルの人々にとっては大きな意味を持つ。Uberやその他の欧米の企業では決して打ち出せない強みだ。

そして、二つ目は、グローバル企業が東南アジアに目をつけることは滅多にないからだ。タン・フーイ・リン氏がそう発言したのは2015年のことだ。今や東南アジアはグローバルビジネスにおいて大きなマーケットであり重要な拠点だが、そういう意味ではGrabは先駆者と言える。

2019年1月には、英ダイソンがシンガポールに本社を移転することを発表した。ブレグジット(英国によるEU離脱)の影響や、シンガポールの税制が移転の理由ではなく、アジアがビジネスの中心となっていることが最大の理由としている。それもそのはずだ、東南アジアの人口は約6億5千万人で、アメリカ合衆国の人口約3億2千万人の2倍にあたる。同地域の経済成長が進むほどに新たな需要が見込まれるのだ。

さらに、シンガポールの経済開発庁は、ITを中心とした奨励産業への外資誘致を進めている。高度な技術を採用したプロジェクトに取り組む外資企業への税制優遇措置や、政府と外資企業のパートナーシップ提携も進められている。2018年6月にはGrabはGrab Venturesを立ち上げ、シンガポール政府と連携することを発表している。Grab Venturesは東南アジアのスタートアップを育てるアクセラレータ事業で、やはり東南アジア地域へ貢献する姿勢をここでも見せている。

シリコンバレーにIT企業が集まり、スタートアップの海外志向が強まる中で、あえて「地元」を選んだGrabは、ブルーオーシャンだった東南アジアを手中におさめようとしている。日本の人口は約1億3千万人だが、東アジアという枠組みで見れば人口は約16億人にのぼり、これは東南アジアの人口の約3倍だ。それぞれの国で言葉も通貨も異なるが、それを乗り越えることが可能であることは、Grabのハイパーローカル戦略が証明した。解決すべき政治的課題、規制上の問題も存在するが、それぞれの地域の文化を理解し、かつ尊重した戦略が取れるかどうか、という点が何よりもポイントになるだろう。東アジアの企業が、東南アジアを席巻するGrabから学べることは多い。

Grabを脅かす存在とは?

だが、Grabもこれで安泰というわけではない。Uberは東南アジアでの事業をGrabに譲ったが、Grabを脅かすライバルは同じ東南アジアから現れている。インドネシアを拠点に置く配車サービスのスタートアップGO-JEKは、2019年1月、フィリピンでブロックチェーン事業を手がけるCoins.phの買収を発表した。

GO-JEKは、2010年にインドネシアで交通の中枢を担うバイクタクシーと顧客をプラットフォーム上でマッチングさせるサービスの提供を開始。2018年からはベトナムで、2019年にはシンガポールでもサービス提供を開始するなど、東南アジアで拡大を続ける。実は、GO-JEKを立ち上げたインドネシア人経営者ナディム・マカリム氏もハーバード・ビジネススクールの出身で、Grab CEOの共同創業者アンソニー・タン氏の旧友に当たる。

GO-JEKも同様に決済サービスのGO-PAYを提供しており、ライドシェアでの決済はもちろん、公共料金や携帯電話料金の支払いなどにも利用できる。フィンテックにも取り組むGO-JEKのブロックチェーン事業参入は、ライドシェアを中心に据えるシェアリングエコノミーを変える可能性もある。独自トークンや暗号通貨の導入により決済コストを削減すれば、ライドシェアサービスの手数料と提供価格はより安価になるだろう。

UberがGrabへの東南アジア事業売却を発表した際には、Grabによる市場独占に対してシンガポール政府から懸念が表明されていた。だが、GO-JEKが存在感を発揮している限り、Grabのプラットフォーム構想も一筋縄ではいかないだろう。次々とキープレイヤーが登場する東南アジアからは目が離せないが、東アジアも負けていられない。東アジアからもハイパーローカルな視点とダイナミックなアイデアを持つスタートアップが登場したとき、アジア経済が世界経済全体に大きなうねりをもたらすことになる。

*為替レートは2019/4/7時点

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