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成功するスタートアップが事業計画よりも大事にすること~リーンキャンバスで顧客と課題を発見しろ~

成功するスタートアップが事業計画よりも大事にすること~リーンキャンバスで顧客と課題を発見しろ~

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2019/03/14

田所雅之氏。スタートアップのアドバイザーなどを務めながらウェブマーケティング会社ベーシック(東京・千代田)のCSOも務める。

起業後、または起業を考えるにあたって一度は「事業計画」の作成に取り組むことになるだろう。「事業計画」は、資金調達や、パートナーアライアンス、創業メンバー集めなど、「協力者を集める」ステージで事業の実現性を判断する材料として重要視されるものだ。

しかし、市場そのものを新たに作るところから取り組まなければならないスタートアップにとっては、フェーズに合わせて事業計画を立てることが重要なポイントとなってくる。

スタートアップが企業アイデアを研ぎ澄ますのに必要な仮説思考の鍵とは?シリコンバレーで自ら起業とイグジットを経験し、その後、米ベンチャーキャピタルのパートナーとして2,000社以上のデューデリジェンスを行うなど、国内外で数多くのスタートアップ育成の実績を誇る田所雅之氏に話を聞いた。

そもそもスタートアップとスモールビジネスは違う

スタートアップ型における事業計画は、従来のスモールビジネス型のそれと根本的に違うものだと認識する必要がある。そもそも日本においては、スモールビジネス型とスタートアップ型の定義が混同されており、おそらく95%以上の人がこの違いを理解していない。

スモールビジネスとは、すでに確立しているビジネスモデルに小規模で取り組む事業を指す。このビジネスに大事なのはいわゆる4P(「Product(製品)」、「Price(価格)」、「Place(流通)」、「Promotion(販売促進)」)や、3C(「Customer(市場)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」)であり、バリュープロポジションがすでに検証されている。

その一方、スタートアップとは、新たなビジネスモデルをつくり、世の中にイノベーションを起こそうとする企業のことだ。

事業計画というのは、スモールビジネスにとっては有効な手段だ。すでにビジネスモデルが確立しており、損益計算書上の指標、例えば売り上げや利益の最大化を経営の目的とする考えに基づいた資金の配分と適切な人材配置の効果が検証されている。

だが、スモールビジネスと異なり、イノベーションを起こそうとするスタートアップは事業計画を必要とするフェーズが全く異なる。なぜなら、スタートアップはそもそも新たに市場を作る、再定義するところから始まるからだ。

スタートアップの事業においては「Unique Value Proposition(独自の価値提案)」を最も重視する。文字通り「独特な」とか「唯一無二の」という意味だが、まだ世の中にない価値を生み出すことが彼らの目的だ。

世の中にないものを検証する時、事業計画など立てようがないはずだが、往々にしてスモールビジネスの発想で立ててしまう。これが間違いの元で、いったん計画を立ててしまうと、それ以降、その計画に引っ張られる。引っ張られるとそれを正当化するために、ついには顧客をでっちあげる。「計画の誤謬」とも言える事態である。スタートアップは市場を再定義する前に事業計画を立ててはならない。

「無知の無知」から「無知の知」、そして「知の知」へ

スタートアップには、3つのフェーズがある。「無知の無知」、「無知の知」、そして「知の知」だ。

スタートアップ事業者は顧客の課題に立脚すべきだ。しかしながら、実は自分たちが顧客について何も知らない、理解していないということに気づいていないスタートアップ事業者が多くみられる。これを「無知の無知」という。

顧客の課題について考え、事業を組み立てていくことで、自分たちが顧客について何も知らないことを知らされる。これが「無知の知」だ。そこで仮説を立て、顧客に会いに行く。仮説を立てずに会いに行っても、時間の無駄でしかない。

仮説を立てることによって得られるのは顧客すらも自覚できていない潜在的課題、つまりインサイトだ。スモールビジネスにはすでにインサイトが存在するが、スタートアップはまだ顕在化されていない課題を掘り起こすところから始まる。

顧客になりきった気持ちで、顧客の行動とニーズを考えるのだ。なぜなら、市場がまだ定義されていない段階では、実は顧客自身ですら自分が欲しいものをわかっていないからだ。答えは顧客の頭の中にしかないが、顧客自身もそれを表現できない。それを「発見」し、「共感」する。

例えば2008年にAirbnbが誕生したが、当時、同じビジネスモデルをホテル業界がやるかというと決してやらなかった。顧客が定義できなかったからだ。だがAirbnbは、顧客の現在の課題ではなく、将来の課題を想定してそれに応えた。これを「プロダクト・フィーチャー・マーケット・フィット(PFF)」という。

2008年頃といえば、まだスマホの浸透率がBlackberryで1%程度、かつ、シェアリングエコノミーという概念もない時代。Airbnbは「自室を他人にシェアするサービス」という、当時、非常識とも思われたビジネスアイデアを60社以上のベンチャーキャピタルにプレゼンして回り、ことごとく断られている。そんな市場は当時まだ存在しなかったからだ。 ただ、Airbnbが初期のプロダクトをローンチした時には、想定していたユーザーからの申し込みが入り、高いフィードバックも受けた。彼らは、顧客からの直接的なフィードバックをベースに事業に自信を深めていった。

現在、Airbnbの時価総額は約4.5兆円と、ヒルトングループの時価総額約2.7兆円を大きく上回り、出資を断ったベンチャーキャピタルは大いに後悔している。ちなみに、「宿泊施設を運営して、顧客満足を高めリピーターを増やす」というのはすでに市場が定義されているスモールビジネスの手法だが、シェアリングエコノミーのプラットフォームを運営するAirbnbは不動産物件を一件も所有していない。まさに非常識だ。

実は、AirbnbのCEOであるブライアン・チェスキーは事業計画を持っていなかった。繰り返すが、スタートアップがやるべきことは、顧客をでっちあげてしまうことではなく、顧客が抱える課題の「発見」と「共感」だ。

更に遡って例をあげると、米自動車会社フォード・モーターの創設者として知られるヘンリー・フォードの話が面白い。彼が馬に乗った人に何がほしいかと聞いたら、「速い馬がほしい」と答えた。これを聞いたフォードは、速い馬に乗りたいというのは、「速い乗り物に乗るのが快感である」ということと、「速く移動したい」という意味だと因数分解して抽象化した。そこで仮説を立て、検証し、事業計画を立ててクルマの生産に至った。

リーンキャンバスフレームワークはこの仮説構築のプロセスを助けてくれる。顧客が誰で、その人の課題は何かを浮き彫りにし仮説を立てるのに大変有用だ。

リーンキャンバスで「課題」と「顧客のセグメント」にフォーカスする

リーンキャンバスは9つの要素から成る事業プランを一枚のシート上で整理し俯瞰するために使うフレームワークだ。もともと、ビジネスモデルキャンバスをカスタマイズしたものだが、スタートアップの実態に合っている。

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リーンキャンバスは30分ほどで描けてしまえる。慣れれば15分でも可能だ。仮説を立て、検証し、試行錯誤を繰り返して、何度でも何枚でも描き替えて事業アイデアを研ぎ澄ませていくことができる。何週間も何ヶ月もかけて作成する事業計画書と、まずここが違う。

スタートアップにとって最も重要なのは「課題」と「顧客のセグメント」だ。「課題」では、想定する顧客の解決するべき課題が何かを3つほどあげる。この時点ではこの課題は仮説に過ぎない。

そして「顧客セグメント」は顧客が誰か、できるだけ具体的なペルソナを想定する。その際にはアーリーアダプター(新たに登場したサービスなどを比較的早期に受け入れ、他のユーザーへ大きな影響を与えるとされる利用者層)をターゲットにできるかどうかを検討することも忘れてはならない。なぜなら、アーリーアダプターは自身の抱える課題に対して日頃から代替ソリューションを積極的に探しているため、プロダクトをローンチした時にフィードバックを得やすい。フィードバックが仮説の検証に役立つのは言うまでもない。

ただし、現状の顧客が満足しているソリューションがすでにある場合もある。その場合でも、それに対する「負の部分」は何かという仮説を立てる。言い換えると、ここまでは実験なのだ。そして、実験段階において最も大事なのは、検証して学ぶことだ。他の人が知らないインサイトをどれだけ学べたかに集中することが肝要であって、この段階での事業計画は重すぎるものになってしまう。

では、どの時点で事業計画が必要になるのか。

2008年にアメリカで創業した共同購入型クーポンサイトのグルーポンでは、ローンチして間もなく、このサービスに一定のニーズが存在することがわかった。すると、後からどんどんコピーキャット(類似サービス)が現れた。日本でもポンパレなどがそうであり、ドイツのロケットインターネットはその代表格だ。

つまり、「知の知」になったわけだ。この段階になると、競争軸が資本力とオペレーションになる。ここで初めて「プロダクト・マーケット・フィット(PMF)」し、やっと資金調達する意味が出てくる。

ここは計画ではなく、あくまで仮説思考でいくべきであり、自分たちが「知の知」という状態になった瞬間に初めて事業計画を作成する。要は、フェーズによるのだ。

「仮説の解像度」が評価を分ける

私はこれまで数多くのスタートアップを支援してきた。スタートアップがどこで評価されるかといえば、まず「仮説の解像度」がどこまで上がっているか、そしてそれに対して創業者に迷いがないかどうか、さらにそれがチームに浸透しているかどうか、を見る。

それが出来ている企業と出来ていない企業とでは時価総額が倍くらい違う。なぜなら、出来ているスタートアップに資金を投下すれば前に進むのは分かっているからだ。つまりこれは、資金調達ではなくて資金用途の仮説なのだ。

このことを知らずに多くの人は、とにもかくにも事業計画を作ってしまうが、それは不安から来るものだろう。それなら、顧客と課題にフォーカスして仮説を立てて、リーンキャンバスやカスタマージャーニーを描くほうがよほど役に立つ。他にもマクロリサーチで人口動態を調べたり法規制をチェックしたり、やることは山ほどある。

資金調達や、オペレーション、カスタマーサクセスの実現はもとより、LTV(顧客生涯価値)に対してCPA(顧客獲得コスト)がまだ低い段階でどのチャネルにどういう戦略で行くか、ABテスト(継続的な検証)をしながら損益分岐点を考える局面を迎える。その段階まで来ると、ようやく一般的な企業になり、事業計画が有効になってくる。

ここで大事なのは、顧客に付加価値を提供できるかどうかのオペレーションであり、そこから見た時にあるべきバリューチェーンを考えて逆算できるかどうかだ。

例えば5年以内にマザーズに上場するというベンチマークがあるとする。5年後に上場するためには、現在のMRR(月間経常収益)を最低でも何倍にしなければならないかという指標が立つ。つまり、半年後、1年後、5年後のあるべき姿から逆算する。それに対してどれぐらいの人員が必要であるかを算出するのはまさに事業計画だ。

最後に、起業する上で実は「内省」というのが非常に大事であることを付け加えておこう。つまり、自分との対話だ。自分が一体何に怒りを覚えるのか、執着するのか。そこにひたすら向き合って、そのストーリーを言語化し、見える化するのだ。

私はパッションというのは半分は怒りだと思っている。怒りに立脚したパッションというのは非常に強い。自分が違和感を覚えるところや怒りや負の感情というのは、誰もが目をそむけようとするところだが、そこに目を向けるからこそ大きなヒントがあり、新しい世界を創れると考えている。

事業計画は必要だ。しかし、フェーズを間違ってはいけない。まずは顧客と課題にフォーカスし仮説を立てて検証すること、そして資金調達ではなく資金用途を考えること。そうして、「既知の課題」が明らかになった時、初めて意味のある事業計画を作ることができる。

「成功するスタートアップが事業計画よりも大事にすること~正しいサイクルで仮説の解像度を上げろ~」

■ 田所雅之

1978年生まれ。日本で4社、米国で1社のスタートアップを起業。帰国後、米国ベンチャーキャピタルのベンチャーパートナー。スタートアップのアドバイザーなどを務めながらウェブマーケティング会社ベーシック(東京・千代田)のCSOも務める。スライド集『スタートアップサイエンス』を作成し、国内外で50,000回以上シェアされ大きな反響を呼んだ。2017年、ユニコーンファーム(東京・港)を設立し、スタートアップの育成支援に注力する。また、複数の上場企業のイノベーション推進顧問を務める他、国内大企業および外資系企業の新規事業開発アドバイザーを担い、経済産業省主催のスタートアップ支援プログラムの委員も務める。2018年11月より、オープンイノベーション/産業革新の内閣府審議会メンバー。著書『 起業の科学 スタートアップサイエンス 』はAmazon経営学カテゴリーで連続68週一位(原稿執筆時点)。

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