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身近なところで量子コンピュータが活躍する時代がやってきた

身近なところで量子コンピュータが活躍する時代がやってきた

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2018/12/26

IBMの量子コンピュータ「IBM Q」
出典:IBMのリリース

成長可能性が高いブルーオーシャン市場

これからの成長と応用の拡大が大いに期待される情報処理技術でよく知られるものに、人工知能(AI)がある。従来コンピュータでは踏み込めなかった応用分野にイノベーションを生み出すという点で、AIと量子コンピュータは同様に位置付けることができる。

ただし、両者には一般の人々の認知度という点に決定的な違いがある。AIには「囲碁の名人に勝つ」「X線写真からガンを見つける」「デジタル・アシスタントと自然な会話をする」といった誰にでも分かりやすいアイコニックな応用がある。これに対し、量子コンピュータではこうした一般人ウケする応用が広く知られていない。そもそも、“人工知能”というファンタジーさえ感じる技術のネーミングと比べると、“量子コンピュータ”という名称は“理科系以外立入禁止!”と同義語の強い圧を感じる。

しかし、実際にこのワードを聞く機会は数年前と比較して格段に増えている。近年は大手企業の研究プロジェクトなどでも取り扱われ、かつて絵空事だと思われていたコンピュータの大衆化が本当に実現したのと同様に、量子コンピュータの大衆化が着実に動き始めているように見える。

量子コンピュータは従来コンピュータの代替品ではない

いま実用化されつつある量子コンピュータの応用には、「効率的な資産運用」「災害時の安全な避難誘導」「アルバイトのスケジュール作り」など、拍子抜けするほど身近なものが多い。確かに「難解な暗号の解読」や「新薬・新材料の開発」といった社会に大きなインパクトをもたらす応用もあるが、多くの人々の生活に密着した身近な応用が見えている点に、将来の大市場が透けて見える。

「量子コンピュータは、スーパーコンピュータをはるかに超える性能がある」。そのような解説文が巷に多く出回っている。これは大筋では正しい。ただし、いかなる場合にも高性能になると言ったら間違いだ。すべての量子コンピュータが、既存コンピュータを置き換えるわけではない。既存コンピュータやAIと共存し、役割分担しながら相乗作用を生み出すことこそが、その本来の存在価値である。

世の中で起きる現象をなるべく忠実に再現したい

世の中には、既存コンピュータでは簡単に解けない複雑な問題、大規模な問題がたくさんある。「株価予測」「化学現象のシミュレーション」などは、従来コンピュータでもある程度の精度でできる。ただし、現実に起こることを正確に指し示すことはできない。自然界や社会の中で、当たり前のように起きている現象を、なぜ従来コンピュータでは再現できないのか。それは、自然界や社会の動きを決めている原理とコンピュータの計算原理に根本的な違いがあることに起因している。

従来コンピュータで問題を解く場合、大きな問題、莫大な計算対象を、機械で計算しやすくするため、小さな問題や少ない計算対象に分割・単純化することが多い。こうしないと、数を“0”と“1”のデジタルデータで表現し、限られた計算資源しか持たないコンピュータで計算できないからだ。ただし、問題を分割すると全体最適な解は得られず、部分最適な解しか得られなくなる。そして、問題を単純化すると、解に誤差を含むようになる。

デジタルデータは、機械で扱いやすく、人間が操作しやすい現象の表現形式である。しかし、実際の世の中はデジタルデータで動いているわけではない。自然界や社会を動かしている基本原理になるべく近い方法で、世の中で起きる現象を再現する。これが量子コンピュータの基本コンセプトである。世の中の物質を構成する基本単位である“量子”の性質を利用して、実世界では一瞬で進行する複雑で大規模な現象を探求できるようにする。

いま私たちは、インターネットの普及によって社会の動きを映す莫大なデータを入手できるようになった。また、IoTの時代には実世界の動きもデータ化して追うことができるようになる。こうして得たビッグデータを的確かつ迅速に活用する手段として、複雑で大規模な問題を解くのに適した量子コンピュータは、欠かせない情報処理ツールになるだろう。

動作原理を知らなくても量子コンピュータは活用できる

量子コンピュータを理解する際、その原理をまず理解しようとする人は多い。しかし、人が生活の中で目にすることがない非日常的自然現象である量子の振る舞いがピンとこないため、ある程度勉強してもモヤモヤが残った状態で終わる人がほとんどだ。

「量子コンピュータを利用するのに、量子力学の知識は全く不要です」。量子コンピュータの活用法を研究している東北大学大学院情報科学研究科の大関真之准教授は、こう語っている。量子コンピュータを開発する研究者やエンジニアならいざしらず、それを有効活用したいだけならば、その適性と特性を知ることの方が、原理を理解することよりもよほど重要だ。そもそもパソコンやスマホだって、使いこなしている人の多くは、その動作原理を理解していない。原理にこだわるあまり、学習過程で「量子コンピュータは難解だ」と刷り込まれるのは損である。

そこでここでは、原理に関しては最低限の説明だけにとどめたい。量子は、モノが存在する状態と、存在しない状態を同時に併せ持つ不思議な性質を持っている。従来コンピュータでは、計算対象となる数を、各ケタを“0”か“1”のいずれかで示す2進数で表現して計算する。このとき、4ケタ(4ビット)の数は“0000”から“1111”まで16種類存在することになる。各ケタの数の表現量子の性質を導入すると、0”と“1”を重ね合わせて共存した状態(1量子ビット)で数を表現できるようになる。すると、16種類あった4ビットの数を、1種類の4量子ビットの数として表現できる。これを計算に使えば、16種類の数を一度に計算対象にできる。

汎用性はないが利用価値が大きい量子アニーリング方式

量子コンピュータの特徴を紹介したい。量子コンピュータは大きく分けて「量子アニーリング方式」と「量子ゲート方式」の2つがある。

量子アニーリング方式のマシンは、解ける問題が「組合せ最適化問題」と呼ばれるものに限られた専用計算機である。既存コンピュータのような汎用性はないが、唯一解ける組合せ最適化問題が自然界や社会で起きる現象の中で頻発するため、利用価値は極めて高い。そして、既存コンピュータと併用することで、その限られた応用を手軽に、少ない手数で、速く解くアクセラレータとして活用できる。

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D-Waveの量子アニーリング・マシン「D-Wave 2000Q」と量子チップ
出典:D-Waveの公開資料

使い手が知っておくべき動作原理をダイジェストでまとめると、「放っておけば最も安定な状態(最適解)に落ち着くという、自然界に内在する仕組みを利用して解を求める」という説明になる。この短い説明の中に、既存コンピュータとの特徴の違いが端的に示されている。自然界の力を使って最適解を得るため、得られた解がどのような根拠で得られたのか説明できないのだ。いわば、やたらよく当たる“おみくじ”のようなものである。

この特徴は、計算機としてはいささか心許ないように思えるかもしれない。しかし、実は同じ特徴を、ディープラーニングや機械学習などAI関連技術も持っている。判断プロセスがブラックボックス化されており、人間を上回る精度の判断はできるが、その根拠を示すことができないからだ。既存コンピュータでは、解を求める手順を人間がプログラムとして指定し、それを忠実に実行する。このため、得られた解の根拠は常に明示された状態だったことを考えると、コンピュータとの付き合い方を再考する必要があろう。

また、同じデータを対象にして計算しても、異なる結果が出てくる可能性がある。実際、量子アニーリング方式を活用する場合には、同じ問題を何回か解かせて、結果を何らかの条件や手順に沿って評価して使っている。

その一方で、量子アニーリング方式には、既に商用マシンが存在し、活用可能な状態になっているという大きなセールスポイントがある。既に、世界中の多くの研究機関や企業がその活用に取り組み始めている。ただし、AIの活用に比べると、大衆化したと言えるまでの動きには至っておらず、目端が利く人たちが熱狂的に取り組んでいる状況だと言える。

汎用性はあるが技術的ハードルが極めて高い量子ゲート方式

量子ゲート方式には、既存コンピュータにできたことは、理論的にすべて処理できる汎用性がある。量子アニーリング方式でできることも、実行可能だ。量子コンピュータの応用として、「整理されていないデータから高速に目的の情報を探索」「暗号の解読」が挙がることがある。これらはいずれも、量子ゲート方式の応用である。

量子ゲート方式には、難点がある。量子の特徴である複数の数が重ね合わされた状態を、解を求めるのに要する時間だけ維持するのが極めて難しいことだ。特に大きな数を扱おうとすると、難易度が格段に高まる。現時点では、最大で約1ミリ秒しか維持できない。また、計算中にどうしてもエラーが混入してしまうため、実用化に際してエラー対策が不可欠になる。

量子ゲート方式の基本原理の中で、利用者が知っておくべきことは、「多様な条件、莫大な計算対象を重ね合わせて1つにまとめ、同時並列的に高速処理できる」という点である。計算手法は「AND」「OR」「NOT」といった基本的な論理ゲートを組み合わせて複雑な問題を解く従来コンピュータと極めて似ている。このため、量子アニーリング方式に比べると、解が得られた根拠を説明しやすい。

量子ゲート方式ならば、既存コンピュータを代替できる。ただし、逆を返せば、技術が未成熟で性能が低い段階では、既存コンピュータに劣るということだ。量子コンピュータの性能が既存コンピュータの性能を超える状況は「量子スプレマシー(量子超越性)」と呼ばれている。量子ゲート方式のマシンの規模が、50量子ビット前後で量子超越性に達すると言われており、その実現は近いと考えられている。ただし、暗号解読のような大規模な計算をエラー訂正しながら行うためには、1万~1億量子ビットの実現が必要とされており、それを実現する技術のハードルは極めて高い。

世界の巨大IT企業が精力的に開発

新たな可能性を秘めた情報処理手法である量子コンピュータは、米国のGoogle、IBM、Intel、Microsoft、中国のAlibabaやBaiduなど巨大IT企業が、精力的に開発を進めている。

これら米国のIT企業は、既存コンピュータを代替する可能性がある量子ゲート・マシンを中心に開発を進めている。2016年には、IBMが5量子ゲートのマシン「IBM Q」をクラウドで公開した。日本では量子アニーリング・マシンの開発が先行して進められている傾向がある。富士通と日立製作所が既に独自方式の量子アニーリング・マシンを実用化した。ただし、Googleは量子アニーリング・マシンの開発も行っている。

さらに、ベンチャー企業も複数誕生している。最も有名なのは、2011年に世界で初めて量子アニーリング・マシンを商用化したカナダD-Wave Systemsだろう。このほかにも、量子ゲート・マシンを開発している米Rigetti Computingの技術が注目されている。

量子アニーリング方式は2年ごとに2~4倍に大規模化

実用化で先行する量子アニーリング方式は、より大きな計算をこなせる方向へと着実に進化している。半導体チップの規模が1.5年もしくは2年で倍増するという「ムーアの法則」のように、2年ごとに計算に利用できる量子ビットの数が2~4倍のペースで増えている。D-Waveが2011年に実用化した「D-Wave One」は128量子ビットだった。これが、2015年に投入した「D-Wave Two」で512量子ビットに、2017年に投入した「D-Wave 2000Q」では2048量子ビットにまで大規模化した。次世代機では、5000量子ビットを超える見込みである。

また、量子アニーリング方式では、実現方法が異なる技術も登場している。D-Waveのマシンは、量子ビットを実現するために極低温への冷却が必要な超電導回路を使っている。富士通は、従来コンピュータと同様のデジタル回路を使って、1024量子ビットの量子アニーリング・マシンと同様の機能を実現した。一般的なデータセンターに設置できる点が特徴である。また、デジタル回路を使っているため、超電導回路では物理的に実現困難な全量子ビット間の相互接続を実現。より複雑な計算を実行可能にしている。同社は、規模を8192量子ビットへと高めていく計画である。同様に、日立製作所はデジタル回路を用いて、全量子ビット間結合は実現していないが、2万480量子ビットと大規模なマシンを開発した。

他方で、量子ゲート方式も着実に進化し続けている。2018年、Googleの量子AI研究所が72量子ビットの量子チップ「Bristlecone」を、Intelが49ビットの量子チップ「Tangle Lake」を発表している。量子超越性の実現が射程圏内に入ってきている。ただし、エラー訂正可能なマシンが実現しない限り、間違いを含む答えしか出せないため、同じ計算を繰り返し実行し、確からしい解を探すことしかできない。

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Googleの量子チップ「Bristlecone」とIntelの「Tangle Lake」
出典:GoogleのリリースIntelのリリース

量子コンピュータの使い手を大量に育成

量子コンピュータは、従来コンピュータとは特徴と応用適性が違う。それを活用する使い手にも、従来のコンピュータ活用とは別の視点と能力が必要になる。このため、マシン開発だけでなく、それを活用して応用を開拓する使い手を育成する動きも加速している。

使い手は2つに大別できる。1つは、量子コンピュータのメーカーが用意する利用環境を使って、応用サービスを開発する企業。もう1つは、量子コンピュータのマシンの特性を生かして利用環境から整えるソフトウエア・ベンダーや一歩進んだ活用法を考える企業である。

前者の使い手は、現時点で実用化している量子アニーリング・マシンの利用を前提にしている場合が多い。量子アニーリング・マシンを提供するD-Waveは、専門的な知識がなくても活用できるオープンソースのソフトウエアツール「qbsolv」の提供を開始しており、活用のハードルはかなり下がっている。

生活やビジネス、社会活動の中にある問題の多くは、既存コンピュータ向き、AI向き、そして量子コンピュータ向きの問題が複雑に絡み合ってできている。問題のどの部分を量子アニーリング・マシンに解かせ、得られた解をどのように活用するか。それを的確に見極める目が、使い手に求められる。

東北大学は、科学技術振興機構(JST)の支援を受けて、D-Wave 2000Qを使った応用開拓を推進。学内の研究に活用するだけではなく、企業の参加も募り、量子アニーリング・マシンの使い手の育成に注力している。現在は、クラウド・サービスを利用して応用開拓しているが、2019年秋には実機を導入する予定だという。また、IBMは量子ゲート・マシンをクラウドで利用できる開発拠点を世界6カ所に開設している。その1つの慶応義塾大学「IBM Qハブ」では、20量子ビットのマシンを利用して、三菱UFJ銀行、みずほファイナンシャル・グループ、三菱ケミカル、JSRが活用法の開発に取り組んでいる。

一方、後者の使い手には、利用する量子コンピュータのハード特性を熟知したうえでのソフト開発が要求される。一般に、量子コンピュータの潜在能力を最大限まで引き出すためには、ハード特性の癖を反映したソフト開発が求められる。既に、量子コンピュータ向けのソフトウエア開発を専門に取り組む1Qbit Information TechnologiesやQuantum Circuits、QC Wareといったベンチャー企業が登場している。

量子コンピュータは、いよいよ実用化のフェーズへ

早くも、量子コンピュータを活用した応用が続々と生まれている。ただし、現時点での実用例は、適用する問題が組合せ最適化問題に限られる量子アニーリング方式によるものばかり。それでも、量子コンピュータの威力を充分実感できる成果が既に得られている。自社ビジネスでの使いどころを見極めるため、実証実験に取り組む企業も増えてきた。

量子アニーリング方式で解ける組合わせ最適化問題は、生活や社会活動の中に多く見られる。冒頭で挙げた「効率的な資産運用」「災害時の安全な避難誘導」「アルバイトのスケジュール作り」といった例は、そのごく一部である。

例えば、その代表的な問題に「巡回セールスマン問題」と呼ばれるものがある。複数の訪問先すべてを最短距離で回る経路を探る問題だ。訪問先が5カ所の場合の巡回ルートは、120通りある。この場合、最短距離となるルートを選ぶのはそれほど大変ではない。ところが、30カ所を巡回するルートは1京×1京通りある。この計算には、有名なスーパーコンピュータ「京」を使っても、約8億年掛かる。ところが富士通は、量子アニーリング・マシンを使って、1秒以内に最短ルートを導き出したという。まさにケタ違いのスピードだ。このスピードならば、実用的なシーンでの活用も見えてくる。富士通は、量子アニーリング・マシンをクラウド・サービスとしての提供を開始した。

資産運用の成績向上や相場見通しの高精度化を目指す

金融分野では、資産運用の最適化や株式・金利・先物取引などの相場予想などでの量子コンピュータの活用が検討されている。

資産運用の成績や相場の行方は、極めて多様な要因、莫大な数のプレイヤーの動きが複雑に絡み合って決まる。こうした複雑で大規模な現象を正確に見通すことは不可能に近かった。このため、意思決定に際しては、熟練した銀行家やトレーダーの勘や経験など属人的能力に頼らざるを得なかった。ただし、量子コンピュータはこうした用途でこそ、その利点が際立ってくる。精度の高い判断をしていくため、金融業界は、量子コンピュータ活用の検討に当然着手すべき状況になったと言える。

米国では、JPMorganChaseやGoldmanSachs、Barclays、MorganStanleyなどの大手金融機関が調査研究を始めている。また、国内でも、三菱UFJ銀行が量子コンピュータの活用法を開発するMDRと共同で、量子ゲート・マシン上での量子アニーリングを資産運用などに応用するための共同実験を開始している。野村ホールディングスも、東北大学と共同で、量子アニーリング・マシンを利用して、資産運用の成績向上を目指す研究を始めている。

MaaSや災害対策の中核に

自動車産業でも量子コンピュータの活用が検討されている。現在、世界の自動車メーカーは、クルマの販売からモビリティ・サービス(Mobility as a Service:MaaS)の提供へとビジネスの軸足を移す検討を進めている。現在、自動車メーカー各社が開発する自動運転車は、将来的には中央管制による社会全体での円滑な運用が行われる可能性が高い。量子コンピュータは、こうした時代の情報処理システムの中核に、MaaS向け車両の円滑な運用に向けて置かれる可能性がある。

独Volkswagenは、D-Waveの量子アニーリング・マシンを使って北京市の渋滞を解消するための個々のクルマの誘導法を探索できることを実証した。刻々と変化する道路状況に合わせて、交通量を分散させるための最適な経路を瞬時に弾き出すことができる。また、デンソーと豊田通商は、タイのタクシーとトラック、約13万台に車両位置や走行データを吸い上げる端末を取り付け、そのデータを量子アニーリング・マシンでリアルタイム処理する実験を行っている。渋滞解消や緊急車両の優先的な経路生成などが狙いである。

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Volkswagenによる量子コンピュータを使った北京市の渋滞を解消する自動車の誘導実験
(左)誘導前、(右)交通量を分散させた誘導後
出典:D-Wave Systemsの公開資料

同様の手法を災害発生時の安全確保に活用する検討も始まっている。東北大学では、量子アニーリング・マシンを使って、津波や豪雨の時の浸水からいち早く逃げるための経路を探す手法を開発している。災害時の避難では、一人ひとりが個別に最短の避難場所を目指すと、1カ所に集中して危険な状態になる可能性がある。全体の人の動きを最適化し、各人の安全な避難経路を一瞬で導き出すシステムの実現を目指している。災害が発生した後、手元のスマホで安全な避難経路を指し示してくれるアプリが実現するかもしれない。

量子力学がかかわる新材料・新薬の開発を加速

産業界へのインパクトが特に大きいと期待されている応用が、新材料開発や創薬への応用である。化学反応など自然現象によって生まれる物質の性質や挙動は、量子力学によって決まる。量子コンピュータは、その量子力学の原理を活用した情報処理手法である。このため、自然現象を活用して作り出す物質の性質や挙動を再現するのに向いている。

これまで、新材料や新薬の開発では、原子や分子の振る舞いを人間と機械が扱いやすい近似モデルで表現し、スーパーコンピュータなどを使ってシミュレーションしていた。ただし、あくまでも近似モデルであることから、現実に起きる現象を正確に表現できなかった。量子コンピュータならば、量子力学が関わる現象をかなり忠実に再現できる。既にGoogleやRigettiが、量子計算や化学計算を量子コンピュータ上で実行するためのライブラリの提供を開始している。

この他にも量子コンピュータの活用は、マーケティングの効果を最大に高める広告配信の最適化、IoTと組み合わせた物流の最適化、機械学習の効率化などへの応用など多方面で検討されている。スマホのアプリを裏側で動かす仕組みとして、量子コンピュータがフル活用される時代の到来が目前に迫っている。

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