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ドイツの電力大手のブロックチェーンに関する取り組み

ドイツの電力大手のブロックチェーンに関する取り組み

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2018/08/07

(写真=fuyu liu/Shutterstock.com)

環境先進国と言われるドイツでは、1998年の電力自由化をきっかけに電力市場での競争が激化し、RWE(エル・ヴェー・エー)、E.ON(エー・オン)、EnBW(エーエヌ・ベーヴェー)、Vattenfall(ヴァッテンフォール)の電力大手4社がシェアを減らしている。そんな中、実験的な技術開発に取り組むイノベーション拠点が、ブロックチェーンをはじめとする先端技術を利用し、エネルギー分野での技術革新に取り組むようになった。本稿ではドイツの電力大手のイノベーション拠点を中心としたブロックチェーンの利用事例を紹介する。

業界再編が進むドイツの電力市場

1998年に電力市場が完全に自由化されたドイツには2018年現在、数百もの電力会社が存在している。中には電力自由化以前から、旧ソビエト連邦(現ウクライナ)のチェルノブイリでの原発事故をきっかけに、ドイツ南西部のシェーナウ市の市民が自らのために立ち上げたシェーナウ電力会社のようなユニークな電力会社も存在する。また、福島第一原子力発電所事故の数ヵ月後には、メルケル首相率いる第一党のドイツキリスト教民主同盟はそれまで脱原発に消極的だった政策を転換して2022年までの脱原発を決定した。

消費者に多くの選択肢を与え、脱原発を打ち出すドイツの電力政策は世界をリードし優れた面もある一方で、選択肢が多すぎる中、誇大広告の乱発や多くの顧客を抱える電力会社の倒産などの混乱があったことも事実である。

ドイツ、さらには隣国も含めたヨーロッパの電力市場で競争が激しくなる中、2018年3月にはドイツの電力大手4社のうち2社、最大手のE.ONとRWEが関与する大規模な業界再編が報道された。E.ONはRWE傘下のInnogy(イノジー)を買収し、RWEはE.ONの株式を部分的に取得した。再エネ事業や送配電事業で住み分けするとし、今後人員削減を伴う大規模な業界再編を進める。

イノベーションを模索する電力大手

これまでのビジネスの転換やリストラに加え、電力大手各社はスタートアップとのコラボレーションのもと、次世代技術開発にも取り組もうとしている。各社のイノベーションの拠点としてRWEの子会社InnogyのInnogy Innovation Hub、E.ONの:agile、EnBWのInnovationsCampus、Vattenfallのgreen:fieldがある。

電力などインフラが関連する事業では、コンセプトを試行に移す段階でも巨額の投資が必要なことが多い。このような状況でスタートアップが単独で事業を開始するのは難しい。スタートアップにとって、すでにインフラを持ち資金力のある大企業とのコラボレーションは魅力的なのだ。大手電力会社にとってもイノベーションが生まれにくい中、スタートアップの先端技術や市場への柔軟な適応力を取り込めるのは良い機会だ。

一歩先を行くRWE/Innogyのブロックチェーンに関する取り組み

E.ONに買収されたInnogyが今後どのような組織となるかは明らかにはなっていないが、電力大手4社の持つイノベーション拠点の中で特に成果を出しているのがRWEの子会社InnogyのInnogy Innovation Hubだ。

2017年には29社を支援し、ポートフォリオには40社が名を連ねる。Innogy Innovation Hubが関わる代表的なプロジェクトとしては、スタートアップSlock.it(スロック・イット)との共同プロジェクトShare&Charge(シェア・アンド・チャージ)がある。Slock.itはIoTとブロックチェーンの分野で独自のデジタルロックデバイスであらゆるものをシェアすることを目指している企業だ。Share&Chargeはイーサリアムのブロックチェーンを基礎とした電気自動車充電ソリューションをオープンソースで提供し、2018年2月のバージョン2.0リリースを経て、2018年夏にはヨーロッパでの実験、2019年にはパブリックテストを予定している。RWEは数百もの充電ステーションをドイツ全土に配備し、Share&Chargeを利用した電気自動車充電サービスBlockCharge(ブロック・チャージ)を提供する。

Innogy Innovation Hubがコラボレーションをする相手はスタートアップにとどまらない。Innogy Innovation Hubは大手自動車部品メーカーZF Friedrichshafen(ゼットエフ・フリードリヒスハーフェン)、スイスに拠点を置く金融持株会社UBS(ユー・ビー・エス)と共同でブロックチェーンベースの車載ウォレットCar eWallet(カー・イーウォレット)の開発にも取り組んでいる。

2018年3月、Innogy のコーポレートベンチャーキャピタルであるInnogy New Ventures LLCは「中央集権的な組織なしでトランザクションを検証できるブロックチェーンをはじめ、分散型台帳技術は次世代の新しいエネルギー分野で重要である」としてブロックチェーンを利用したアプリケーション開発を支援するDigital Trust Engineを提供するCryptowerkへの出資を発表している。

そのほか、ブロックチェーンに限らずエネルギー分野のコンペティションFree Electronsを開催している。ドイツやヨーロッパのみでなく、次世代を担う世界のスタートアップの発掘にも余念がない。

E.ON、EnBW、Vattenfallの取り組み

E.ONの:agileもエネルギー関連のスタートアップを輩出している。ブロックチェーンを利用したものではQuantozがEnergy21とデザインするコミュニティにおけるエネルギーマーケットモデルを設計した。さらに、アクセラレータープログラムやイベントを通じてブロックチェーンを活用するエネルギー分野のスタートアップや人材の発掘を目指している。

EnBWについてはブロックチェーンを前面に押し出した技術開発やスタートアップの支援に関するニュースはないが、スマートエナジーのためのIoT製品を開発・販売するスタートアップLIV-Tを立ち上げている。現状LIV-Tが開発・販売している製品は給油や気温調整のための製品だが、スマートエナジーとIoTというキーワードから将来的なマイクログリッド構築やブロックチェーンの利用への布石になるかもしれない。

Vattenfallの同名のスウェーデンの親会社はヨーロッパのエネルギー取引企業22社と連携している。エネルギー卸売市場でブロックチェーン技術を用いたP2P取引システムの構築を目指すほか、Vattenfallでイノベーション促進を目指すgreen:fieldはオープンで分散型のエネルギーデータの取引プラットフォームを開発するGrid Singularityをコラボレーションパートナーとして挙げている。

電力業界でのブロックチェーン浸透の行方

本稿ではドイツの電力大手4社のイノベーション拠点を中心としたブロックチェーンに関する取り組みについて紹介した。RWEとInnogy Innovation Hubは他社の一歩先を行き、電気自動車の充電や支払いにブロックチェーンを利用するプロジェクトが実験を経て実用化に近づいている。また、E.ONの:agileの支援のもとQuantozとEnergy21が開発するようなコミュニティでエネルギーの地産地消を目指す取り組みも特筆すべきものだ。実際、ブロックチェーンを利用したマイクログリッド(小規模コミュニティによるエネルギー生産)については先行事例としてアメリカのBrooklyn Microgridがある。ただし、ドイツではマイクログリッドの要となるスマートメーターをはじめとする計測機器の要件を定めた法律MsbGが2016年に制定されており、これを満たすデバイスのリリースが普及の鍵となるといった特有の事情も考慮しなければならない。

B2BではVattenfallが参加する電力卸売市場でのブロックチェーンを利用したP2Pの電力取引の行方にも注目したい。

今後、ブロックチェーンをはじめとした分散型システムを用いた技術がいっそう社会に浸透していくことが予想される。エネルギー分野は大量のトランザクションを処理する必要があり、金融と同様ブロックチェーンが威力を発揮する可能性のある分野である。環境先進国で技術立国でもあるドイツの電力大手とその支援を受けるスタートアップの動向は世界のエネルギー分野の進展を占う上でも押さえておきたいところである。

署名: Aki T.

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