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スウェーデン発「失敗博物館」館長が語る、失敗の重要性

スウェーデン発「失敗博物館」館長が語る、失敗の重要性

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2017/07/21

スウェーデンに登場した「失敗博物館」とは

アップル社が初代iPhoneを発表したのは2007年だったが、その15年も前にiPhoneやiPadのコンセプトに似たプロダクトを販売していたことを知るひとはそれほど多くないだろう。1992年、毎年米国で開催されている世界最大の家電見本市CESで、アップル社は当時世界初となる個人用携帯情報端末PDA「メッセージパッド通称ニュートン」を発表したのだ。

当時としては画期的な手書き認識機能を備えたニュートンは話題を呼んだようだが、大型サイズ、高い価格、そして手書き認識機能の認識率の低さなどから、世の中に広まることなく1998年頃に開発が中止され、その後市場から姿を消した。そしてニュートンは商業的な「失敗」として広く知られるようになった。しかし、その後アップル社はiPhoneやiPadを開発し大成功をおさめることになる。

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Photo:アップル社のPDA「ニュートン」

 

世の中には、このような失敗が数え切れないほど存在している。イノベーションの影には必ず失敗がある。つまるところ、失敗なしにはイノベーションを起こすことは難しいということ。失敗は成功のための非常に重要な要素ということだ。

しかし現代社会は、成功のみを崇拝し、失敗から学ぼうという精神を失いつつある。このことに警鐘を鳴らし、人びとに失敗の重要性を学んでもらおうと、今年6月スウェーデンに、失敗したプロダクトのみを展示する「失敗博物館」が登場した。

今回、失敗博物館の創設者であり館長を務めるサミュエル・ウェスト氏に、失敗博物館を創設した理由、良い失敗・悪い失敗の違い、そして失敗から何をどのように学べばよいのかを聞いた。

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Photo:失敗博物館創設者兼館長サミュエル・ウェスト氏

 

失敗博物館館長の一押し「失敗」作品集

ウェスト氏は、臨床心理士であり、組織心理学の博士号を持つ心理学の専門家だ。そんなウェスト氏を失敗博物館創設に駆り立てたものとはいったい何だったのだろうか。

「私はもともとイノベーションに関する研究を行っていたのですが、研究を進めていくなかで、成功に関する文献が圧倒的に多く、それに辟易したのがきっかけです」ウェスト氏

ウェスト氏は自身の研究で、企業組織において遊び心がクリエイティビティやイノベーションにつながることを明らかにしている。遊び心を持ちながら試行錯誤を繰り返し、その過程における失敗から多くのことを学ぶことがイノベーションに必要不可欠な要素という。

また、失敗から学ぶ上で、自分の失敗から学べることは少なくないが、他者の失敗からのほうが同等またはそれ以上のことを学べるとウェスト氏は考えており、それが失敗博物館創設につながったという。

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Photo:失敗博物館には世界中の「失敗作」が展示されている

 

失敗博物館には遊び心満載ながらも、失敗に終わったさまざまプロダクトが展示されている。歯磨き粉メーカーのコルゲート社が1980年代の冷凍食品ブームに乗ろうと開発したビーフラザニア、コカ・コーラ社のコーヒー味のコーラ、大型バイクメーカー・ハーレーダビッドソン社の香水など、アイデアはおもしろいが商業的に失敗に終わったものが展示されている。

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Photo:歯磨き粉メーカーのコルゲート社が開発したビーフラザニア

 

そんな数多くある展示品のなかで、ウェスト氏のお気に入りについて聞いてみた。

1つは、コダック社の世界初のコンシューマー向けデジタルカメラDC40だ。

「コダック社はデジタルカメラ分野においては、かなり早い段階で開発しておりパイオニア的存在でした。DC40は1995年にリリースされたモデルです。しかし、コダック社は1975年にすでにデジタルカメラを開発していたのです。そのときに経営幹部は『これはいいプロダクトだ。ただし、ほかには黙っていよう』と言ったのです。当時のフィルムビジネスを脅かす存在になると恐れたからです。このほかにもオンライン画像共有サービスも開発していましたが、デジタルカメラと同じ理由で本腰を入れて普及させようとはしませんでした。結局コダック社は2012年に破綻してしまいます。この失敗は、破壊的テクノロジーによって可能になったビジネスモデルを本当の意味で受容できなかったことに起因すると考えることができます」ウェスト氏

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Photo:コダック社が開発した世界初のコンシューマー向けデジタルカメラDC40

 

また、マイクロソフト社とシャープ社が共同開発したスマートフォン「KIN」もお気に入りという。

「このKINは、ソーシャルメディアのヘビーユーザーや10代をターゲットに開発されたスマートフォンですが、とても短命でした。スライド式のキーボードはFacebookやTwitterを使いやすくするためにデザインされたようですが、実際はそうではなかったのです。また、アプリやゲームも少なく、カレンダーやGPSといった機能もなかった。それなのに、AndroidやiPhoneと同等の費用がかかる。このため、誰もKINを選択するメリットが分からなかったのです」ウェスト氏

KINの失敗は、後のWindows Phoneのデザインや価格設定などに生かされているはずだ。

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Photo:マイクロソフト社とシャープ社が共同開発したスマートフォン「KIN」撮影Sofie Lindberg

 

このほかにお気に入りはいくつかあるようだが、それらに共通しているのは、DC40やKINなどのように失敗の背景にあるストーリーを色濃く物語っていること。こうした失敗ストーリーから多くのことを学ぶことができ、その学びを次の挑戦に生かし、それらの経験の蓄積がイノベーションにつながっていくということだ。

ウェスト氏は「プロダクトを死に追いやる失敗は、悪い失敗。これは回避すべきことです。しかし、失敗から何かを学び次につなげることができると、それは良い失敗になるのです」と指摘する。

成功崇拝から抜け出し、失敗から学ぶ姿勢を

イノベーションを成功に導くために私たちは失敗をどのように捉えるべきなのだろうか。

多くの研究では、イノベーションを生み出すプロジェクトの80%~90%が失敗に終わることが明らかになっている。ほとんどの場合、失敗は避けて通ることができないものということになる。

「すべてのイノベーションにとって失敗は1つの『要素』として、ポジティブに捉えることが重要です」ウェスト氏

ウェスト氏のこの指摘を言葉で理解するのは簡単だが、「成功崇拝」文化のなかで生きる私たちにとって、このことを真に理解し実行することは簡単ではない。

成功崇拝文化では、失敗は恥ずかしいこと、隠して忘れてしまいたいと無意識に思ってしまう。すると、失敗経験が共有されず、イノベーションに近づくことができない状態がつくりだされるのだ。

メディアや学術研究などがこぞって成功のみを取り上げ、その情報を発信しているというのが1つの要因だろう。しかし、そのような情報を喜んで受容する側も、成功崇拝文化を醸成する要因だ。

情報を発信する側、そして情報を受容する側の両者が、成功ストーリーの背景にある数多くの失敗の重要性を認識することが成功崇拝文化から脱却するために必要だ。

過去日本企業はソニーやホンダに代表されるように、数多くのイノベーションを生み出してきた。それは、いまに比べ失敗から学ぶ姿勢が強かったからではないだろうか。

「現在の日本の技術的インフラは非常に高いレベルにありますが、昔のようにイノベーションの最先端にはいないように見えます。それは多くの企業が現状維持の姿勢を保ち、革新的な取り組みに注力していないからだと思います。世界の競合と競っていくには、意識や考え方など含め多くのことを変えていかなくてはならないでしょう」ウェスト氏

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Photo:ソニーのBetamaxも失敗博物館に展示されている撮影Sofie Lindberg

 

世界中を見渡すと、米・カリフォルニア、イスラエル・テルアビブ、スウェーデン・マルメなど比較的失敗に寛容な地域はあるという。しかし、ウェスト氏曰く、失敗に寛容でも、失敗から学ぶことに関してはまだまだできることはあるという。

つまり、日本を含め世界総じて成功崇拝の呪縛にあり、失敗からの学びが足りないということ。人工知能、ブロックチェーン、スーパーコンピュータなど技術的インフラが整いつつあるいま、そこからさらなるイノベーションを起こし飛躍するには、いま一度「失敗」を見つめなおすことが必要なのだろう。

文:細谷元( Livit http://www.livit.media/ )
写真:提供失敗博物館( http://www.museumoffailure.se/ )

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