「D-Wave 2000Q」がコンピュータの歴史を変える? 量子コンピュータの未来

「D-Wave 2000Q」がコンピュータの歴史を変える? 量子コンピュータの未来

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2017/03/14

(写真=R.T. Wohlstadter/Shutterstock.com)

次世代のコンピューティング技術として注目を浴びている量子コンピュータ。その量子コンピュータの中でも最高峰と称される最新モデル「2000Q Quantum」が、量子コンピュータのパイオニア、カナダのD-Wave Systems社から発売された。史上で最も複雑な超伝導集積回路を備えたコンピュータと評されることもあるが、これは一体どのようなものなのか。

量子力学の動作原理を利用した量子コンピュータ

量子コンピュータと従来のコンピュータは、基本的に全く異なる「テクノロジー」だ。2つの決定的な違いは、基盤となる情報処理の仕組みだろう。理論計算科学上、従来のコンピュータの量子情報が0と1の組み合わせで変換されているのに対し、量子コンピュータでは0と1だけではなく両方を重複させた組み合わせが可能になる。

この特質を用いると、例えばスーパーコンピュータ(HPC)でも気が遠くなるほどの時間を要する複雑な計算が、これまでの常識では想像できないほどのスピードで解くことが可能になる。つまり量子力学の動作原理を利用して従来のコンピュータの不得意分野を克服しているというわけだ。

「D-Wave One」「D-Wave 2X」を経て、Google、NASA、米政府とも提携

世界で唯一の商業用量子コンピュータ・メーカーであるD-Wave Systemsは、2011年、世界初の量子アニーリング方式(関数の最小値および離散変数値を解くための量子計算)の量子コンピュータ「D-Wave One」を、米航空機・宇宙船の開発製造会社、ロッキード・マーティンに出荷した。10平方メートルの巨大なボディに128量子ビットが搭載されていた。

2013年以降はGoogleやNASA、宇宙研究大学連合(USRA)などが共同設立した「量子・人工知能研究所」(QuAIL)と提携し、「D-Wave 2X」の開発に着手。量子ビットを1,000に増加させ、2の1,000乗の数の処理を一度行うことに成功した。この「D-Wave 2X」はNASAエイムズ研究センターに導入された後、2015年に米ロスアラモス国立研究所へ1,000台導入されている。

2016年には米政府へのD-Wave量子コンピュータ提供を目的とする子会社、「D-Wave Government」を設立。米エネルギー省や米防衛庁のベテラン幹部を役員会に迎え、国家規模での量子コンピュータ開発に乗りだした。

最新モデル「D-Wave  2000Q 」の発売を直前に控えた2017年1月には、開発用オープンソース量子ツール「qbsolv」を発表。D-Waveシステム用アプリソフトの開発を目指す開発者に、必要な情報や技術を提供している。

不可能を現実にする?「D-Wave 2000Q 」

2017年1月に発売された「D-Wave 2000Q 」は「D-Wave 2X」の2倍の量子ビットを搭載している。D-Wave  Systemsの説明によると「D-Wave  2000Q」は最高2,048キュービット、5,600カプラーを実現した。通常これほどのスケールを実現するには、12万8,000ジョセフソン接合素子(超伝導体の間に超伝導電流が流れる現象、ジョセフソン効果を利用した高速スウィッチング素子)が必要となる。

「D-Wave 2000Q」がより効率的に対応できると期待されている具体例は「機械学習・コンピュータ科学(例:統計に現れた変則性の検出・パターンやイメージの認識)」「財政モデル(例:市場不安の察知・投資手法の開発)」「セキュリティー・任務計画(例:ウイルスやネットワーク侵入の検出)」「医療(例:不正の検出・放射線治療のための最適化計算)」などである。従来のコンピュータと比較すると、最高1,000倍の速度で組み合わせ最適化問題のアルゴリズムを解けるという。

「D-Wave 2000Q」は無敵の最新コンピュータなのか?

しかし、それだけのパワフルなテクノロジーであれば、何らかのリスクが伴うのではないだろうか。D-Wave Systemsはこの疑問に対し、これまでのD-Waveモデルが得意としていた低消費電力という点において「一切引けをとらない」と主張している。

近年大幅に増加しているスーパーコンピュータの消費電力を2,500キロワットと想定した場合「D-Wave 2000Q」の消費電力は100分の1の25キロワットだ。将来的に「D-Wave 2000Q」の能力を超える新型モデルの開発に成功したとしても、「消費電力が増えることはない」と主張している。そうなると環境保護やコスト削減という意味でも、「D-Wave  2000Q」(あるいはいずれ発表されるであろう最新モデル)に勝るコンピュータは存在しないということになる。

D-Wave Systemsも認めているように、量子コンピュータの歴史は始まったばかりだ。今後進化の過程で様々な利点とともに、弱点も表面化してくる可能性も予想される。すでにD-Waveの量子コンピュータに関する賛否両論が、多方面から聞こえてくるのも事実だ。しかしそうした試行錯誤なしではテクノロジーの進化は望めない。

「D-Wave 2000Q」がコンピュータの歴史を塗りかえる存在になるか否かは、時間が明らかにしてくれるだろう。

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